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ヒーロー計画39
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「あら、あなたもお友達連れて来たのね。まあ、人は多いほうが賑やかでいいからそれはいいけれど。匡、あなたどうしてそんなに不機嫌なのかしら?」
大樹が認識する前に、彼女がそばに立っていて、そう言った。
驚いて少し目を見開く。気が付いたのは彼女だけだろう。紹介を受け、彼女が匡の姉である涼だと知った。背筋をピシッと伸ばし自信たっぷりな態度の彼女は、まっすぐに大樹を射抜く。涼は目を細めると、すぐに視線を匡に向けた。
「悪い」
あの匡が彼女に対しては素直に表情を緩めて謝っている。大樹の胸がなぜかチクリと痛んだ。彼には決して向けられることはないだろう、信頼しきった匡の顔。
「まあまあ、いいのよ。ただ、取ってる部屋が私たち兄弟と後季のお友達用の2部屋しかないのだけど、どうしましょ?」
「あ、オレ、治良と一緒の部屋でええんで。水渓さんよかったら部屋使ってください」
スッと手を上げ提案してきたのは、言葉に訛りのある小さな少年。季よりも小さいかもしれない。
大樹は小さな思い過ごし程度の胸の痛みなど忘れ、涼のことを注意深く見る。少しの動揺ですら、周囲に悟られるようなマネは決してしない。彼らに対して悠然と頷く。
「はあ、匡と一緒じゃねぇのかよ……まあ、家族水入らずを邪魔するほど野暮じゃねえし、仕方ねえか」
強行突破は無理だと判断した。匡が心底ほっとしたような表情を浮かべたことにはもちろん気づいていた。しかし、何も言わなかった。
大樹は、
「あー、マジ暇。やっぱり匡さらいに行くか? でもなー、あいつの姉ちゃん強そうだったもんなー。ちょっと休戦しとくか」
彼以外誰もいない部屋で、誰に対してでもなく独り言ちる。
口に出して言わなければ延々考えを巡らせ続けてしまいそうだった。同族嫌悪にも似た涼に対する思いに、匡に対する執着心。ベッドに寝っ転がって天井を睨みつける。なぜなぜなぜ――返ってくることのない疑問が頭の中で渦巻いていく。
今日もまた、欝々とした夜は更けていく。
次の日、晴天に恵まれたイタリアは思いのほか暑かった。入国してからほとんどを車や建物の中で過ごしていた季たちと、昨夜到着したばかりの匡と大樹。
「暑い、なんだここ。くそ……」
額に汗を浮かべながら匡が恨めしそうに太陽を睨みつける。
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