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ヒーローとは4
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ゆっくりと歩き出し、その速さが競歩と呼べる速度にまでなると、そのまま全速力で走りだす。脇目も振らず自分の部屋へ辿り着きドアを閉めて勢いをつけたままベッドへ頭から突っ込んだ。
心臓の音を聞きながら、荒い息を整える。自分に何が起こったのか、噛みつかれて赤面してベッドにダイブした事実は分かるが、理解ができない。原因を探るが彼の脳みそはショート寸前でまともに機能していなかった。
今日は調子が悪いだけだ。大樹は自分に言い訳するように呟いて、それからギュッと目を閉じた。心臓はやがて平静を取り戻し、寝不足もあってか意識は闇に落ちていく。
明日になればいつも通り。昔から感情を抑え偽ることは得意な大樹は、いつしか自分自身の気持ちを偽ることにも長けていった。人々の言動に踊らされることは許されない。生まれたときから支配者であることが決まっていた男は、自分の気持ちに気が付くことなく色々なものを道端に捨ててきた。初めから決められた必要なものだけを用意され感受してきた彼は、自らが欲したものの大切さを知ることはなかった。欲したことすら気付かずに打ち捨ててきた。
頬を涙が伝う。眠る大樹の目から、とめどなく溢れ続けていた。
***
次の日の朝。匡の部屋で。
「ん、怪我でもしたのか?」
「……覚えてないのか?」
大樹の首元には包帯が巻かれていた。それを半笑いで匡が聞いてくるものだから、大樹は信じられないものを見るような目で彼を見た。
「何がだよ? つーか、お前。酒駄目だっつってんのに何食べさせてんだよ」
「そこは覚えてんだな。どこまで記憶あるんだ?」
「は? だから、お前が落ち込んでんのからかってチョコレート食べて、ぶっ倒れる瞬間までだけど。後は朝まで爆睡、だろ?」
若干不安の色が混じっているのは大樹の表情から、何かしでかしたのではないのかと推測したからだ。それを聞いた大樹は、
「いや、勝手に寝やがったからどうしてやろうかと思ったんだ」
「それは……お前のせいだってことは、分かったうえでのその発言だよな?」
「フン、そんなのは知らん。これは、蚊に刺されて掻きむしった結果だ。気にするな」
そっけなく言って会話を打ち切った。怪訝な顔をする匡を無視して部屋を出る。
大樹は彼に向けていた表情の一切を消して階段を降りていく。首元に手をやると小さな痛みが走った。
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