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嫌がらせは時折裏目にでる
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「で。どこまでしたんさ?」
古賀という男は侮れない。
俺とハナクソが付き合ってる、なんてことは勿論周りにはナイショだ。つーか言えるわけもない。なんたって男同士、しかも相手があのいがみ合って喧嘩しまくってクラス…っていうか学年公認の「喧嘩コンビ」とまで言われてしまうような、ハナクソだ。バカと天才が紙一重なのとおなじで、好きと嫌いもそうかもしれない。
ハナクソをそういう目で見るようになったきっかけはイマイチわからない。ただ、初めから。そりゃもう鼻垂らしてたガキのころから、あいつだけは悪い意味での特別だった。それが一周まわって、いまや恋人同士だなんてどうかしてる。多分俺は心の病で、あいつは頭の病だ。時期に目が覚めるだろ……なんて、そんなわけもなく。ハマる一方。ウザい。
知ってしまった感情をいまさら白紙にはできない。でもウザい。まじウザい。今も教室の中心で、頭の悪そうな連中とバカさわぎしてるハナクソ。顔も広けりゃ人脈もある、そんな人気者の松くんは、俺のイラつきメーターを刺激してくる。
嫌いなんだよ。あの、つくり笑顔。胡散臭。ハナクソが手を叩いて笑うときは、心底つまんねぇっておもってる時だ。…今日で、見てただけでもう10回はそうやって笑ってる。
「こーら。俺の話きいてる?…お前そんなに松のことガン見してたらさ、いつかバレんぞ」
「……ていうか、俺、お前にあいつと付き合ってるとかそういう話したっけ」
「あ、ビンゴ。やっぱ付き合ってたんだ。」
「??!!古賀!お前ってほんっと食えねぇな!」
「あはっ今更じゃね?つーか質問に答えろし!どこまでしたのか教えて?」
黄色の髪をふわんと揺らして、にっこり笑ってみせるあざと系代表のこと男は、俺のつくえに肘を置いて、両手で頬杖をついた。
どこまで、って、どういうことだ。
チラリ、とハナクソの方をみるとハナクソは相変わらずバカに混じって笑いながら、紙パックのミルクココアをのんでいる。古賀も俺につられてハナクソに視線を移した。それでも俺とあいつの目が合う、なんてことはない。目を逸らそうとしたら、ハナクソの横にいたクラスメイト(名前は覚えてないけど、たしか前に俺に絡んできたやつだと思う)がハナクソの手を掴み、そのままハナクソの持っていたミルクココアのストローをくわえた。「あっ!おい!勝手に飲んでんじゃねーよ!」なんていいながらそいつの頭をはたくハナクソ。その光景を見て、なんでかもやっとする俺。
それって俗にう間接キスってやつじゃないんですかね、ハナクソくん。
アホらし。そんなことにいちいち反応してる自分、気にもとめてないハナクソ、ここでもうなんか負けた気がする。クソだ、ほんとクソゲーだ。俺ってこんなに心狭かったっけ、つーか間接キスもなにも、男同士だし。よくあることだし。いやでも、…でも!ウゼェ!ムカつくもんはムカつく!仕方ねぇじゃん、あいつは今、俺の、なのに。俺の…なのに?
「いでっ!」
「柳ってわっかりやすいなぁ」
古賀に手の甲を抓られた。俺はいまそんなにひどい顔をしてたのか。頭をかきながら小さくため息をついた。
「なーんもしてねぇよ。出来るわけねぇだろハナクソだぞ?ハナクソ相手に人間がなんか出来るわけねーだろ」
「あははっ、いつまでそんなこと言ってんのさ!ウケる!」
「だって、仕方ねぇだろ!………名前、呼ぶだけで、結構キツい」
りょうすけ、と、あいつの名前を呼ぶだけで、かなり精神力を使うんだよ。頬を机にくっつけて項垂れると、見なくてもわかるニヤニヤ顔で古賀は「意外とウブ?甘酸っぱいねー」と茶化してくる。うるさい。あー!うるさい!
人と付き合ったことなんてないんだから、どうすりゃいいかわかんないのなんて当然だろ。嫌いで嫌いで嫌いで仕方なかったんだ、あんなやつ。ムカつくしチビだし態度でかいしリア充だし殴ったら折れそうなすせにすぐつっかかってくるし、嫌いなとこなんていくらでも挙げられるのに、それでも、…もういい。やめだ、やめ。俺が負けたんだよ、あいつのあざとさに。
「なにをすりゃイインデスカネ」
実のところ、これがよくわかってない。付き合ったら普通なにすんの?
イチャイチャラブラブウフフアハハ?
オェッ気持ち悪っ。
あいつと俺が?むりむり、キモ。
「…柳がしたいことすりゃいいんじゃなーい?お前がもたもたしてるから言っとくけどさ、松ってかなりモテますよ。」
「あの全身でハナクソを体現してるようなあいつが?!……なんてな。分かってるっつーの。」
「昨日も女に告られてたさ?。」
「へぇ、それは初耳。ま、いいんじゃね。知らねぇよ、んなこと」
「そんときの松がさぁ、傑作だったから。お前に教えてやろうと思って。」
「…くだんねーことだったら殴るぞ古賀ァ。俺はいま生理中の女子顔負けなぐらいデリケートなんだからな」
「『俺じゃなきゃダメな奴がいるんだ。…ごめんな?』…これ、お前のことだよな。松って、バカそうにみえてよく見てるさー。人のこと」
見た目の割に低い声で笑う古賀に殺意が湧いてきた。なに、はぁ?あいつそんなこといって断ってんの?まじウザいキモい!ほんとバカじゃねーの自惚れもいいとこだし、そんなわけねーじゃんふざけんなよカス、ティッシュに丸めて捨てられろハナクソが!バカ、じゃねぇの、って顔が熱くなっていく俺も俺だ。あーくそ、きもい、なぁにが「俺じゃないとダメな奴がいる」だよ、そりゃお前だろクソナルシ!うざいわー!!ハナクソはどこまでいってもハナクソだな。
「ま、俺が勝手に立ち聞きしてただけだからさ、俺がチクったことはナイショにして?」
キーンコーンカーンコーン、と、古賀の声とかぶって授業開始のチャイムが鳴り響いた。古賀もすくっ、と席をたって、自分の席へともどっていく。そして当然だけど、さっきまで古賀がいた場所に、ハナクソが戻ってきた。
…なんかむかつく。
さっきから俺ばっかりお前なんかにいちいち反応してときめいて、なんだこれ?恋してるみたいじゃね?うわ、きも。青春かよ。きも。
ふつふつと湧いてくるこのきもち。ふざけんなハナクソ、お前にやられてばっかじゃ気がすまねぇだろ。
がたん、
椅子を引いて座ろうとした隙をみて、ハナクソの椅子をさらに後ろまで引っ張る。ガターンッ!!とデカイ音を鳴らしながら大げさにからぶって尻餅をつくハナクソは、一種かたまって、すぐに立ち上がって俺の方に振り向いた。まわりからは笑い声と「なにやってんだよ、松ー!」という声。「柳ナイス!」とかいうバカもいる。
しれっとした顔をしていると、ハナクソが青筋を立てて俺を睨みつけてきた。
「テメーー!なにしてんだよ!カス!ワカメのカス!!いてーだろーが!」
「お前がマヌケだから悪いんじゃないですかー」
「クッソボケが、ぶっ殺してぇ…!!そんなに俺のことが嫌いかよ!」
「あーもうムカつくよお前なんて!まじクソカスうんこだわ!!」
「きったねぇなぁオイ!んだよ今日はまだなんもしてねーだろ!」
「まだ?!これ以上なんかしてみろ琵琶湖に重りつけて沈めてやるよ!無意識とかまじで許す価値もねぇ!バァカ!」
「はぁ?!もう意味わかんねぇんだけどだれかこのハナクソ殴って?!つーか今日帰りツタヤ寄ろうぜ」
「あん?いいけど遠いからお前が前乗れよ!?」
「ざっけんなお前みたいなゴリラのせて走れるかよ!!」
「んだとゴラァ!!」
「んだよやんのか?あ?」
喧嘩がヒートアップしてきた、まわりが笑いながら俺らをみてる中、古賀だけが冷静に放った一言で、教室が静まり返る。
「つーかまだ二人乗りして学校きてたんだ?仲良しだねー!」
………。
いらんこと言ってんじゃねぇよ古賀ァ!!
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