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帰り道は無言。なんかちょっと気まずい。いつもこんな感じだっけ、もっとなんか喋ってなかったっけ。
夕日は完全に沈んでいる。日が落ちるのが早くなったなぁ、なんて思いながらチャリを漕いでいるうんこ頭と、帰り道。こつん、とワカメの背中にもたれかかる。それでもワカメは何も言わない。マンションについても無言。無言でワカメのカバンを抱きかかえたまま荷台から降りる。ワカメと目は合わない。無言、無言、無言。
チャリを止めに行ったワカメのカバンを健気に抱きかかえながらロビーで待ってると、のそのそ歩いてるだけなのに色気丸出しの、どう見ても高校生には見えないあいつが向こうから歩いてくるのが見えた。目線はスマホに落とす。ワカメは何も言わずポケットから変な皮のキーホルダーとモモちゃん?とかいうキャラのキーホルダーが付いたデスマッチすぎてダサい鍵を取り出して、ロビーのドアを開ける。時代は自動ドアのはずだけど、特別新しいマンションにすんでるわけじゃないから手動。ワカメが片手でドアを開け、支えながら俺の腕のなかにあったリュックをひょい、と取り上げた。ありがとうの一言ぐらい言えよ、礼儀しらずなワカメだな!
「なにしてんだよ、さっさと通れ」
むすっとした顔でそう言われ、こいつなりの気遣いに気づく。そういえば、前に一個の傘で一緒に帰ってきたときも…こいつ、自分の肩濡らしてたなぁ。なんで今それを思いだしたのかわかんねぇけど。
さりげない優しさ、ってのは、まぁ。うん。あるんじゃないですか、知らんけど!
なんて言えばいいのかわからず、そのまま無言でドアの先へ。エレベーターのボタンを押して、二人並んでエレベーターがくるのを待つ。無言、無言、無言。無言。
エレベーターのドアが開く。いつもの癖で五階と七階を押そうとすると、ワカメが俺の手を掴んで、七階だけを押した。その行動に驚いてバッとワカメの顔を見ると、さっきと同じむすっとした顔。
「…ブス。なんつー顔してんだ。お前の家に泊まればいいんだろ」
「……マジで?いいの?」
「はぁ?なんだよ、帰んぞコラ」
「いや、言ってる間に七階だし。…お前ってアレ?最近流行りのツンデレ?キモいんだけど」
「死ね。ツンデレってのはモモちゃんみたいな子のことを言うんだよ!何も知らねぇリア充が浅い知識でモノ喋ってんじゃねーよカス!」
「そんな怒るとこ?!お前やっぱ頭どうかしてんじゃね、だからそんな曲がった毛が生えてくるんだよボケ!髪が心を表してんだよ絶対!」
「てめぇコラ、しょうもねーこといってねぇでさっさと鍵開けろよ寒いだろ!」
「ワガママかてめぇは!はいはい開けます開けます開けますよー、コレでいいんですかー!」
「ドア開けなきゃ入れねぇだろアホか?!」
「お前いちいちうるさい!いちいちウザい!ほら入れよワカメ!!んでリビング行け!」
「あ?てめぇの部屋じゃなくていいのかよ」
「だって誰もいねーし、つーか…部屋に、テレビねぇし…」
靴を脱ぎながらちょっと言葉を濁らす。ワカメは何もいわずにポリポリと己のワカメを掻きながら「…お邪魔します」と、小さな声で言った。誰もいねーって言ってんのに。
ワカメをリビングに通す。俺の家のリビングに置いてあるのは、二人掛けのベージュ色のソファが二つ。テーブル、テレビ、母さんの趣味の観葉植物。ワカメはちょっと戸惑って、ソファに腰掛けた。別に戸惑ったりしなくていいのに。俺もカバンからツタヤの袋を取り出してそれをテーブルの上に起きながら、ワカメの隣に座る。ワカメと俺の距離、30センチ。遠。
無言、無言、無言、無言。
今日、無言多いな。いや、いつもこんな感じだっけ、違った気がするけどただ一つだけわかることは……、俺たちなんかちょっと、緊張してる。
「あー、…のさ。ちょっとお願いがあるんだけど」
「嫌だ。それより何隣座ってんだよコーラもってこい」
「あ?図々しいなお前!んなもんねーよ水道水に食塩まぶして海水っぽくしてやるから大いに喜べくそワカメ!」
「んなもんもってきたら密林に埋めんぞ!」
うっさいうっさい、小姑かなにかかこいつ。むかつくけど、こいつを呼んだのは俺だ。くそむかつくけど仕方ないからソファから立ち上がってキッチンに向かう。冷蔵庫を開けるとコーラが一本横たわっていた。…そういえば、こいつがコーラ好きだとか言ってたから買っておいたんだった。俺は炭酸すきじゃねぇから飲まねぇのに。バカは俺かもしれない。はあ、とため息をついて、ペットボトルのキャップを開ける。ぷしゅーっと炭酸の抜ける音。グラスに適当に注いで、 残りはまた冷蔵庫へ。
…ちょっとDVDセットしてくれって頼もうと思ったのによ、まじバットタイミング。ほんとに、ほんとに、ほんとーに見るんだよな。…ゲイビ。なんか変な汗かいてきた。ゾッとしてきた。ケツ、ケツ、ケツ…ケツ?ケツってなんだ?なに?どういうことなんだよ。
(ケツって、あれ…うんこするところだぞオイ…)
未知も未知。それでも俺は、いつかあいつと、そういう日が、くるんだろうなって、…思ってっから。よし。あいつのケツをいじくりまわすなんてあんまり想像したくねぇけど、うん、まあなんとかなるだろ。
グラスに注いだ黒い液体。零れないようにワカメの元に運んで、ワカメの前に置いてやる。
「これ海水?」
「聖水だよ。…てめぇなにニヤニヤしてんの目潰すぞ」
「ふぅん、涼介くん。お前炭酸嫌いじゃなかったっけ?」
「っ、バッ…!おま、これは、あれだ!葵が好きだから!」
「へぇ?まだ幼稚園に通ってる葵ちゃんがねぇ?まだ舌ったらずな葵ちゃんがねぇ?」
「う、ざ、い!くっそ、マジで海水作ってこりゃよかった!」
ニタニタ、その顔ウザい…!ナチュラルに名前呼んでくんのも、すっげーウザい!慣れないのは俺だけか?俺だけがまだこいつの名前を、こっぱずかしくて呼べてない。…こいつってほんと、意地悪い。もしかしたらちゃんとした笑顔とか見たことないかもしれない。ちょっとまて、ほんとにないぞ。常に真顔、もしくはこういう意地悪顔、またはキレ顔、…こいつ、まじで俺のこと好きか?
「で、マジで見んの。」
「お、おぅ。見る。マジで見る。だってお前、その先っつったらこういうことだろ、ちげーの」
「………、まさか、ケツ使うって、思わないだろ」
「………だよなぁ。」
「………………。」
「…………………。」
「………………………なんか、言えよ」
「……せっかく借りたし、見ようぜ。今セットすっから、…ってあれ?」
テーブルの上に置いてあるツタヤの袋をひっつかんだのに、軽い。中身が入ってない。え?は?どういうこと?なんかのマジック?さっきまであったのに。謎に駆られていると、ワカメが「ハナクソって基本的にアホだよな」と呟いた。突然の暴言にイラっとしてつっかかろうと息を吸い込んだとき、
「お前のお願いってこれだろ。セットしといたっつーの」
「へ??あ、おま、だっれもそんなこと頼んでねーだろ!」
「あ??かっわいくねーな!せっかくやっといてやったのによ」
「よけーなお世話だよ!俺のことヘタレだと思ってんじゃねぇぞくそワカメ!」
「いってぇな!掴みかかってくんじゃねぇよ!」
ピッ
「「あ」」
いつも通りのケンカ、いつも通りの取っ組み合い、そしていつも通りじゃない、リモコンの作動音。
テレビ画面にはこのゲイビの製作会社のロゴがでかでかと映っていた。あ、予期せぬトラブルで突然ゲイビ鑑賞が始まった。まって、心の準備が出来てない!
とりあえずワカメの胸ぐらを掴んでいた手を離す。そして、無言。無言。お互い顔も見合わせない。無言。そして俺たちの距離は、10センチ。
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