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お嬢さんの薬指は予約済
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僕は普通の花屋をして、毎日真面目に働いてきたつもりだ。なのになんで目の前の人のせいで私は職を失うくらいの危機に合ってるんだろう。
目の前の不機嫌な人は僕を睨み付けている。僕が何をしたんだろう、第一印象は最悪だ。でも、この人に一発で心を奪われたのは疑いもない事実なのだ。
それが僕と藤さんと知り合ったきっかけだった。藤さんは私より年上の生け花の先生だそうだ。名前は菊水藤さん。名前に花が入ってるなんて綺麗だなぁと思った。藤さんは名前に負けないくらい綺麗なんだけれども。藤さんは自分の容姿と名前が気に入っていないらしく間違えられると凄く怒る。僕少し敏感過ぎると思う。話を聞けば今も大御所の偉いさんが藤さんの事を「お嬢さん」と間違えて呼んでしまったのをまだ気にしているんだと言う。それから藤さんはみんなにお嬢さんと呼ばれているんだそうで。花の世界も大変なんだなあと他人事のように思った。
「藤さん、お願いがあるんですが。」
藤さんはこっちを見て、不機嫌そうに言った。
「何、」
嗚呼、欲しい眼差しはそれじゃないのに。
「手を出して下さい。」
「ん。」
また藤さんは本に目を戻してしまって此方は向いてくれない。僕は小さくため息をついて差し出された手にそっと触れた。それから薬指に花の指輪をつける。華道ではあまり使わない小さな花、藤さんの白い手に映える。
藤さんはやっと気付いたようで手を見た。それから無表情で僕の手をとり、僕の薬指に通した。
「あんたの、健康的な肌の方がにおてるわ。」
それから僕を見て、悪戯っ子の様な顔をした。僕は急に恥ずかしくなって下を向いて薬指を見る。
「こっちを見てみ、なんか言いたいんとちゃうの?」
子供を諭す様なゆっくりした言い方。僕は嫌いじゃないけれど、あまり好きではない。子供じゃあないのですよ藤さん、もう僕は。一人前に貴方に恋しているのです。
「藤さん、僕が、成人したら、」
「うん、何?」
「一緒に、なってくれますか?」
僕の隣に動いていた藤さんはそっと僕の頬に口づけた。それから強く抱きしめ、言った。
「お前に、予約されたるから早よおいで、退屈するんは嫌いやねん。」
藤さんは笑って、
「待っとったる。」
ともう一度言った。
椿の花が落ちる音がした。
レイラの初恋様にタイトル頂戴しました。
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