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Ⅱ・9
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夜の7時に待ち合わせして、七瀬の住むマンションに向かった。
「メシは?」
短く誘うと、「うちで」って言われて、素直に後をついて行く。
七瀬んちはジムから電車に乗って2駅、つまりオレんとこの最寄り駅より1つ手前だった。
前に強引にオレんちに誘ったことがあったけど、あん時はオレに合わせて降りてくれたんじゃなくて、乗り過ごしてくれたんだな。そんなことにも今気付いた。
確かに早朝勤務もあるんだし、なるべく近い方が便利だよな。
「酒でも買ってくか?」
コンビニの前で訊くと、「ワインならある」って言われた。
もしかして、オレのために用意してくれてたんだろうか? そう考えると、すげー嬉しい。でもきっと、訊いたって素直にうなずいてはくれねーんだろう。
イヤなら飲まなくていい、とか言われそうだ。想像すると、ふふっと笑える。
「メシ、作ってくれんの?」
試しに訊くと、思った通りの言葉が返ってきた。
「イヤなら食べなくていい」
って。
「イヤな訳ねーだろ。嬉しーよ」
それには返事をもらえなかったけど、ツンと背けたままの口元が少し緩んでて、可愛くねーのに可愛いなと思った。
インストラクターの年収は忙しい割に高くねぇって聞いたけど、もしかするとオレよりも多いのかも知んねぇ。七瀬のマンションはオレんちの安アパートより、ずっと広い物件だった。
1LDKで、リビングにはランニングマシンが置かれてる。
後はソファとラグとTVとパソコンがあるだけの、ストイックな部屋だ。
余計な物置いてなくてガランとして見えるけど、もしかしたら床で筋トレとかするためかも知んねぇ。
「適当に座って待ってて」
七瀬はテキパキと荷物を置き、手を洗って、慣れた仕草で冷蔵庫を開けた。肉や野菜を迷いなく出してるとこ見ると、あらかじめ準備してたんだろう。
「自炊、よくすんの?」
近付いて声を掛けると、「邪魔」ってキッパリ追い払われた。ただ、そう言いつつもホントにイヤだった訳じゃねーんだろう。
「休みの日とかは、なるべく……」
野菜を刻む手を止めて、そんだけぼそっと答えてくれた。
再び包丁を持つ手が動くのを見て、そういや器用な方じゃなかったよな、と思い出す。べらべら会話しながら料理すんのは、考えてみりゃホントに無理そうで、邪魔そうだ。
自分ちじゃねーし、待つだけってのは手持無沙汰で落ち着かねぇけど、大人しくソファに座っとくしかねぇ。
カタカタ、トントン。野菜を刻む音が、しんとした部屋に響く。
七瀬はずっと背中を向けっぱなしだったけど、優しい音を聞いてるだけで、なんかホッとしてくのを感じた。もし2度目があるなら、今度はちゃんと手伝おう。
調理が終わり、テーブルに呼ばれた時に「今度は手伝う」っつーと、七瀬はちらっとオレを見て、ふっと笑った。
「邪魔だな」
2回も言われるとさすがにグサッと来たけど、米すら何年もといだことねーし、反論もできねぇ。
「うるせーな、手伝うつったら手伝うんだよ」
じろっと睨んで見せると、ふふっと笑われて、そんなやり取りがすげー嬉しい。
オレも七瀬も互いに手探りで、そろそろと手ぇ伸ばし合ってる感じ。暗闇にいる訳じゃねーのに、なんでこんな、手探りなんだろうな?
タレに付け込んだチキンとサラダ、炊きたての白米、それに味噌汁。ありふれた献立だと思うけど、七瀬の作ってくれたメシはすげー美味かった。
ファミレスとも違うし、コンビニ弁当とも違う。
ワインは食後に開けてくれた。
つまみに、つって七瀬が冷蔵庫から出してくれたのは、オレンジピールにチョコを掛けたデザートだ。
「赤、白、スパークリング、どんなワインにも合うんだって」
って。あくまで「つまみ」だっつってるけどチョコだ。オレンジピールの不揃いさが手作りっぽい。
「このチョコ、ジムで貰ったヤツ溶かしたのか?」
照れ隠しに訊くと、「クーベルチュールだよっ」ってじろっと睨まれた。
クーベルなんとかが何なのか知らねーけど、自分で用意したモノらしい。やっぱチョコだ。
「ありがとな、スゲー美味い」
ワインと一緒に七瀬からのチョコを齧って、じっくり味わう。
オレンジピールは少しほろ苦かったけど、悪くねぇ。赤ワインもあんま甘くなかったけど、チョコが甘いからちょうどよかった。
癖になるほろ苦さだ。
今の七瀬みてぇ。
思った通りを口にすると、七瀬は「なに、それ」つってツンと目を逸らしてたけど、口元が緩んでんのはちっとも隠せてなかった。
ソファに移動した後も、そのままワインとチョコを味わった。どっちからともなくキスをして、互いにワインを飲ませ合う。
「好きだ」
ソファに押し倒して告げても、やっぱ同じ言葉を帰しては貰えなかったけど――チョコ貰った後だし、メシも作って貰ったし、ここは七瀬の家だから、もうあんま気にならなかった。
服を脱がせ合い、互いの肌に手を這わす。
「大胸筋、小胸筋、僧帽、筋……」
オレの体を指で辿る七瀬の言葉には、相変わらず色気がなかったけど、構わずその胸に吸い付くと、小さく喘ぐのが耳に届いた。
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