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最初は高校だって、今まで通り皆僕を可愛がってくれるんだと思っていた。
産まれた時から可愛い可愛いと持て囃されいつも人が僕を囲んでいた。
それが僕の生き方だってずっと思っていたのに。
入学式当日、呆気なくいとも簡単に崩されてしまった。
『なあ、聞いたか?
今年は姫の投票ないらしいぜ。』
『うっそまじで?
じゃあ俺ら一年からは姫居ないってこと?』
『いやSクラスの奴が投票なしで姫確定だって。』
「え?」
耳に入ってきた話に思わず呟いていた。
海石榴高校名物【姫】制度。
学年の中から投票された美形を姫として役職を与える制度。
昔近所のお兄ちゃん達が話していたあの姫に、なれるかもしれないと胸を躍らせていたのに。
いや、なるものだと思っていたのに。
『隣見てこようぜ、オヒメサマ来てるかもしれないし。』
『お前本当ミーハーだよなぁ。』
軽口を叩きながら連れ立って教室を出ていく名前も知らないクラスメート達を眺めていたら無性に腹が立ってきた。
僕を差し置いて、それも投票もなしに姫になる奴が居るだなんて。
許せない、そう思っていた筈なのに。
乗り込んだ隣の教室に居たのは引き込まれるような雰囲気を纏った綺麗な人だった。
細身で、それでいて身長もあって男性だと一目で分かるのに色気が匂い立つその姿に僕は言葉が出なくなっていた。
『俺に用があるんですよね?
何ですか?』
甘い雰囲気を纏い笑みを浮かべる目の前の人物にどくりどくりと心臓が脈打つ。
『立花 雪って言います。
君は?』
この美しい造形ならば、【姫】も頷ける。
いやこの人じゃないとダメだ。
見惚れる僕に怒声が浴びせられた。
『おい!聞いてんのか?!』
惚けた思考を呼び戻したのは僕よりは大きい、それでも小さな金髪だった。
そうだ、名前聞かれたんだった。
「あっ、あの!
ぼ、僕、Aクラスの松原 隼人です…。」
乾く唇を必死に動かし綺麗な人に自己紹介をする。
『隣のクラスなんだね。
これからよろしく。』
にこりと笑みを深め真っ白い手を僕に差し出すお姫様にとうとう僕の頭はオーバーヒートしてしまった。
テンパったまま乗り込んだ筈の教室を飛び出した。
自分の教室に走り込み机に突っ伏する。
立花 雪さん…。
綺麗だったな。
あの人が煌びやかな衣装を着たらどんなに美しいのだろう。
伏せた僕の顔は紅潮しているのが自分でも分かる。
熱い頬を机に付けていると廊下から叫ぶ声が響いてきた。
『教室戻れー!
なんで三年までここに来てんだよ!』
確かに先程走り抜けた廊下には犇めく程の人が居た。
きっと全員、あの綺麗な人を見に来たんだろう。
『おい、具合でも悪いのか?』
そんな事を考えていると低い声が僕の後ろから届き肩を軽く叩かれた。
そういえば後ろの席だったな、と思い顔を上げると途端に安堵したような息が吐かれ笑いが込み上げた。
「大丈夫だよ、心配し過ぎだって。」
にこり、得意の笑顔で振り向くと困ったような表情を浮かべた同室の榛原 隆が覗き込んでいた。
「隆こそ、朝から絡まれて大丈夫だったの?」
同室だからと一緒に登校した僕達は校舎に入る直前柄の悪い上級生に声を掛けられた。
確かに隆の見た目は不良に分類されるだろうし、赤いメッシュが進学校では変に目立つ。
調子に乗るなから始まり、やれ、もうヤったのかだの、一回貸せだの汚い言葉を朝から投げられ辟易していた。
はいはいと流して校舎に入ろうとする僕と反対にこめかみに筋を立て上級生に突っ込んでいった隆は振り向きもせず口を開いた。
『隼人!お前は教室行っとけ!』
「わかった。
気を付けてね。」
僕が加勢出来る訳もなく、早々にその場を立ち去ったのだった。
見る限り傷も無く生還した隆が頷いたと同時に教室の扉が開きのんびりとした声が発せられた。
『お待たせしました~。
担任の佐倉です~。』
なんとも間延びした声に教室内がしんと静まった。
『担当教科は生物で~、専門は細胞学です~。
検体の提供はいつでもお待ちしております~。』
のほほんとした口調で自己紹介をする佐倉にぞわっとしたものが走る。
きっとこの人に逆らってはいけない。
Aクラス内で誰一人とて言葉を交わさずに一致団結した時だった。
順に生徒が教卓に呼ばれ赤いタイピンを受け取り入学式の会場に向かう為教室から出た。
『雪様っ!!』
不意に響く声に目をやるとにやつくチンピラのような男と走り寄る朝の金髪。
その後ろからすっと黒髪の長身が綺麗な人を囲むように動いていた。
『ああ~…、また遊んでるんですね~。
そうだ~、あそこに居るヤクザみたいな彼は~、隣のSクラスの担任です~。』
「え…。」
ここが霧生組経営の高校であることは当然皆知っている。
寧ろヤクザが来ていると言われた方が納得できる出で立ちの男に驚愕の視線が注がれた。
視線を集めたその教師は気にもしない様子で階段の方へ足を進めSクラスの生徒を引き連れて行った。
『こちらも続いて行きましょうね~。』
のほほんとした掛け声を共に佐倉がゆったりと先陣を切り大ホールへと向かった。
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