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相談 side I
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昨日の昼間。
珍しいヤツから電話があった。
「もしもーし?」
「…あ、伊佐木。今ええか?」
―ああ。コレだよ、コレっ!
ホンモノの関西弁。
ただそれだけで、かなり俺のテンションは上がった。
「お~。何だ。タクマじゃねえか。」
いつだったか、焼鳥屋で意気投合して以来、音沙汰なしだったコイツから、連絡が来るとはな…。
ニヤニヤがとまんねーわ。
酔ったタクマは、和によく似た、ホンワカした雰囲気のリーマンで、結構俺のタイプだったけど。
遠恋中のカレシ持ちだって言われたから、お持ち帰りはしたものの、結局そーゆー関係にはならずじまいだった。
―これはもしや、チャンス!?
いや、たしかタクマは、どSなカレシに、メロッメロにされてたよなぁ。
そんな様子も、微笑ましく感じるような、本当にウブなヤツだった。
さて、保険か、車か?カネならねーぞ!?
多少身構えた俺に、相変わらずの無防備ヴォイスがゆるっと聴こえてきた。
「久し振りやなぁ。元気にしとるんか?」
「ああ、お陰様であの後和とヨリも戻って絶好調だ。それより、ソッチはどうなんだよ?例のカレシとは、あれからどうなったんだ?」
「ああ…その事でな、伊佐木に頼みがあるねん。」
―キタキタ!
「なんだ?とにかく言ってみろよ。出来ない事だったら、ハッキリ断るからさ。」
一体何を頼まれるのかって、かなりワクワクした。
「あんなぁ、ちょっとだけ相談、させて欲しいねん。」
「…相談?」
―無欲というか、真面目というか…。
やっぱコイツ、なんか放っとけねーな。
「相談ていうか。今からしばらく、オレの話相手になって欲しいねん。」
電話口から訴える声が、ひどく切羽詰まった調子に変わっていた。
「なぁ。それって俺でいいのかよ?」
「うん。逆にな、静との話は、伊佐木以外にはできへんねん。なんかおかしかったら、ツッコミ入れてくれても、笑ろうてくれても、ええから、なぁ、頼むわ。」
「じゃあ、まあ、聞くけどさ。…おまえ、大丈夫なの?」
一度きりしか会ったことのない、俺なんかにすがるタクマ自身のメンタルが、どうにも気になった。
「大丈夫や。嫁とやり合うて、ちょっと参ってるだけやから。」
「嫁と?…なぁ。カレシにはその話、してあるのか?」
「一応、した。」
「そっか。で?なんて言われたんだ?」
「それなりに、しっかりフォローしろってさ。」
「まあ、そうだよな。」
―どうやら、カレシはそれなりに常識のある大人らしい。
俺は少なからずホッとした。
「そやけどな。実はもう嫁にカムアウトして、離婚したいって言うてしもててな…。」
―なんだって!?
「おいおい!そりゃあ、大変だろうが。」
「まあ、な。」
小さく笑う様子も、痛々しい。
それでも、俺は訊かずにいられなかった。
「どうしてまた、そんなことになっちまったんだよ!?」
「次の子が欲しい、言うて、勃たへんオレに、嫁がしがみついてくるねん。それがもう、どうにもやりきれんかってな…」
「あぁ、そりゃあ、かなりヘビーだよな。」
嫁なんかいたことがない俺だが。
これをゲイに置き換えて考えてみれば『イヤなタイプに何度も追いかけ回されて、掘られる寸前までいった』なんてのとそう変わらないかもしれない。
「それにたぶん。嫁はオレと居る限り、他には目が行かへん。つまり、この先ずっと誰にも抱かれることはないんやなぁ、とか考えたらな、なんや、ちょっと申し訳ない気もしてきてな。」
「なるほど…。」
―つまり。
タクマはカレシと会ったら、嫁が可哀想になるくらいに、ヨロシクやって満たされてるってことか?
「それで、嫁に諦めて貰う為に、自分はゲイだって言っちゃったのか?」
「ああ。そしたら、逆に怒らせた。中途半端やって、めちゃくちゃキレられた。」
「ありゃりゃ。」
「このまま、どっちつかずの生活を続けるんは、ツラい。でも、静との関係が壊れてしまうんは、もっとコワイ。もうオレ、どないしたらええんか、分からへんねん…。」
半泣きの子羊には、申し訳無いが。
今の俺がアドバイス出来そうなことと言えば、ただ1つ。
「その…なんつーか。上手く言えねえけどさ、とにかく、1度カレシとこの先の事を、トコトン話し合ってみなよ。案外、上手く行くかもしれないだろ?」
「そう、やろか?」
「そうに決まってるだろ!?この前の話じゃ、誰がどう聞いたって、オマエのカレシ、すっげえホンキだったじゃん?」
「マジで、そない思う?」
―なんでコイツはここでこんなに迷うんだ?
俺は首を傾げたくなった。
―もしかして。その背中を俺に押して欲しいのか?
「あぁ、ソコは保証する。つーか、ちゃんと自覚しろよ。」
「自覚?」
「どっちからも、ホンキで欲しがられてる。モテモテな自覚だ。」
「モテモテって何や、それ?…全然違うし、何や言うてる事が、イマイチようわからん。」
―えええっ!?
コイツ、無自覚か?
カレシがエッチで何とか落とそうとガンバった結果が、裏目に出てるってパターンか?
おいおい…。
「つーか、さっきから聴いてりゃあ、おまえが浮気相手みたいな言い方だけど、違うだろ?」
「あ…。言われてみたら、そう、やんな。」
「おいおい。今更か!」
本当に浮気に向いてない。てか、完全に本気、なんだな…。
「とにかく。やっちまったんだから、そのまま正直に話して、カレシとの明るい未来へ向けて、突き進め。それで何かまた悩んだら、俺に言って来いよ。一緒に悩む位は、してやれるからさ。1人で抱えこむな。」
「…わかった。おおきに。」
「いいってことよ。じゃあ、頑張れ。」
「うん。ほな、またな。」
あっさりした短い挨拶で、重たいやり取りは終わった。
―終わったけどさ
ありゃあ、マジで心配だわ。
まだゲイ歴1年にもならねえ、ヒヨッコの行く末を案じて、俺は頭を抱えた。
―カレシさんも、早いとこ肚括って、迎えに行ってやってくれよ?
でないと、アイツ…。
まるで父親みたいな気分にさせられた、おかしな夜だった。
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