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掌 sideR
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息子の片方消えた手袋を探して衣装ケースをかき回していたら、思わぬ物が出てきた。
―このアンサンブル
いつやったか、京都でデートした時の…。
まだ初秋だったが、身を切るような風の冷たい日だった。思わず首をすくめた瞬間。
夫が自分の手を取った。
「寒いで、こっち行こ。」
自分より大きな掌は、とても温かで、ピッタリ吸い付くように思われた。
―この人と、行こう。
特別何を言われた訳でもなかったが、なぜかもう心は決まっていた。
不思議なことに、互いを知れば知る程、好みや考え方が似通っていることが判って、その度、顔を見合わせ、微笑み合った。
そう。
まるで、元からずっと夫婦だったかのように、どれだけ一緒に居ても、全く苦にならない。
和泉は、それまでの誰とも違う、不思議な男だった。
経済的に少し不安は無くもなかったが。
子供が学校に行き始めたら、パートに出てもいい。
なんなら、和泉の実家で同居しても、かまわない。
莉緒にそう思わせる位、全ては上手くいっていた。
このままずっと、穏やかに暮らしていけるものだと疑いもせずにいた。
可愛い息子も生まれ、スクスク育っている。
―そやのに
いきなり夫が可笑しなことを言い出した。
あの人は、私以外の人の手を取ろうと…。
いや。
もう、別の掌に触れて、変わってしまった。
―まさか、男にとられるやなんて…
抱えきれない気持ちをぶつけるように、相談した親の答えは、信じられないものだった。
「その位で騒ぎなさんな。騒がんと、辛抱しよったら、その内戻ってきはるよって、何もせんでええんよ。」
「辛抱?戻ってくる?お母ちゃん、そんな勝手、許したん!?」
「そら全部はムリや。ムリやから、少しずつ、ゆっくり上手に、見逃すんやんか。」
「なんやの、それ?そんなことホンマに…」
「やらな、しゃあない。出来んかったら、終わってしまう。それこそ、許されへんことやわ。」
答えた母の顔は、莉緒の知らない女のものだった。
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