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再。side I
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「おい、飲み過ぎじゃないか?」
気付いて、止めた時にはもう遅かった。
「んー?まだ酔うてへんって。」
不満そうなタクマの口から出たのは
しっかり酔っ払った野郎の常套句。
コッチを見た瞳が、少し潤んでると思ったのは、俺も若干酔って目にきてる、ということにした。
「オマエは明日も仕事だろ?そろそろ帰った方が、良いんじゃないか。」
「そやな。ほな、またな。」
フニャッと笑って、そのまま店から出て行ってしまった。
「おい、待てよ!」
慌てた俺はマッハで会計を済ませて、追っかけた。
―たしか、タクマは、結構な方向音痴だったはずだ。
赴任してやっと1ヶ月。
まだ不案内な土地だ。
素面ならともかく
酒に酔った状態のアイツが、迷わず帰れるかアヤシイ、と踏んだ俺は正しかった。
「ドッチから来たんやったっけ?」
小声で呟きつつ、少し先をフラフラ歩く酔っ払いに、後ろから声を掛けた。
「おい、そっちじゃねえぞ。」
「あぁ、伊佐木。今から電車乗るんか?そやったら、駅まで一緒に行こか。」
―コレだよ。
あまりに暢気な言い種に、思わず、ガクッと力が抜けた。
―マジで、俺が居なかったら、どーすんの?
…って、あぁ。またこのパターンか。
学習しねえのは、俺も同じだな。
苦笑が溢れたが、どうせ乗りかかった船だ。
変な所で沈まねえように、ちゃんと面倒みてやんなきゃな…。
「てゆうかさ。オマエん家、どこだよ?」
てっきり住所を言うもんだと思ったが
「んー。たぶんな、あっちの方やったと思う。アプリで地図見ながら帰るから、大丈夫や。」
覚束ない指差しとスマホ、ダブルでもまだ不安が残ったのは、本人のせいだよな。
「どれ。見せてみな。」
「この橋渡ったとこにある、スポーツジムの隣。」
「ここのドラッグストアのことか?」
「ああ、それや。」
―ジムとドラッグストア、全然違うじゃん。マジ合ってんのかよ!?
『レオパレソール21』
一応、住所的には、あってるのか。
「じゃあ、…コッチの方向だな。」
俺が導き出した答えは、さっきタクマが指差した方角とは真逆だった。
「ホンマか!?…えらいおおきに。」
礼を言って歩き出したと思ったら
なぜか、目の前のコンビニへ突進してゆく。
―おいおいおいっ!
「どうした?」
「トイレや!先帰ってええからな。」
―そんなことが、出来るかよ、バカヤロー。
案の定、出てきたタクマは、しっかり元来た方角へ戻り始めた。
「だからさ、コッチだって。」
廻れ右をさせて、一緒に歩き出す。
―よくコレで、大阪なんて都会に住めたよなぁ。
梅田の地下街なんて、入ったら最後、迷い放題じゃないのか?
しばらくすると、低い声が呟いた。
「あんなぁ。一緒におって楽しいんやて。」
「…は?」
「有能で、ウマが合うて。良いもんが、作れそうやって。急にそんなメールがきてな。」
「それで?」
「だからな。良かったな、って言うた。実際、オレかて静の新作は、楽しみやしな。」
―新作。
どうやら、カレシの仕事の話らしい。
―アーティスト系なのか?
だったら、おいそれとは同棲できねえのも解る気がするな。
「…っ。オレとは、ロクに話も、せんクセにっ!」
「おい、タクマ?」
聞いたこともない、尖った、かなしい声だった。
「何が元サヤや!そっちは不適切な関係っちゅうやつやろ!?」
―ありゃりゃ。
アシスタントとの仲を疑っちゃってるのか。
「あー、ハイハイ。取り敢えず、着いたし、鍵出せよ。話は中でじっくり聞いてやるからさ。」
「…ん。」
日中のテキパキ加減も、日頃の愛想も、どこへやら。
そこに居たのは、どうしようもなくネガティブな気持ちを抱え込んだ、1人のオトコだった。
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