アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
奮
-
「コチラへ越して来るとすれば、イツになる?」
―はあっ?
いきなり気忙しい雰囲気というか
少しテンションが上がったような静の声を聴いて
オレはハッとした。
―ぉ!おい、まさかっ!!
今の一言で、マジでオレが札幌移住を計画中や、て勘違いしてしもたんか!?
えええええぇえぇええっ!?
あまりに予想外過ぎる静の反応に、オレはビックリを通り越して、プチパニックを起こした。
―ど。
どないしょ…!?
「住居に、何を求める?利便性か、広さか。北国だからな。日当たりや風向きも、充分考慮すべきだ。コチラの建物の気密性は完璧だから、白樺の花粉も持ち込まないようエントランスで上着を預かって貰える方がいいだろう。となると…。」
電話の向こうで、ガサゴソと音がし始めた。
―家賃には全くふれへん辺りが、静らしいなぁ
…って、違うしっっ!
早いこと、さっきのはちょっとした思い付き発言やって、ネタバラしせな、アカンやないか!?
―でもなぁ~。
この場合
一体どないに言うたら、ええんやろか?
頭を抱えたオレは、おそるおそる、口を開いた。
「ぁ…あんな?そのぅ…せめて、今作ってる新商品が発売になる夏頃までは…岡山から離れられへんと、思うねん、やんか…?」
「なるほど、夏か。」
―のわっ!!
ヤンワリ言うたら、全く、いっこも、通じてへんやんかっ!?
むしろ、季節を言うたせいで、より具体性が増してしもた感すらあるで。
「せ、静?頼むから、その話は、もうちょっとだけ、待ってくれ。」
パタ、と軽い音がして、静がノートパソコンのディスプレイ画面を閉じたんが判った。
「待つも何も…おまえ自身が言い出したことだろう?」
色んな気持ちをいっぺんに押し殺したような、ため息まじりの声が、ジワジワ胸に沁みて
また、泣きそうになった。
―莉緒だけやないんやな。
オレは静も、グズグズで中途半端な気持ち悪い立ち位置へ、立たせたまま
ずっと、待たせてるんや…。
嫁sideみたいな、イライラとは違う。
でも、同じくらい強くオレに向けられてる気持ちが、静の中にもある。
―オレのこと、全力で待っててくれてる。
今更ながら、それがハッキリ判って、グッと胸にくるもんがあった。
それに引き替え、オレはと言えば…
「ぇ。えぇとな…?まだ、そのぅ…ょ、嫁との話も、ついてへんしな。今日は、慰謝料とか、そんな話が出て。それでな、オレもっと稼がな、払えん計算になってて。それから、3月からな、むこうの親が半身不随らしくて。…とにかく。このままでは全然アカン!てことだけは、よう解った。」
―あまりにも情けない。
「…和泉。」
何か言いかけた静に被せて溢れる気持ちのまま、早口で言い切った。
「余計な話、聞かせてしもて、堪忍な?」
「全くだ。」
唸るような声が答えた。
「でもな、オレは今夜、静と話せて良かった。…ありがとう。ありがとうでは全然言い足りへんな。でも、ホンマ、感謝してる。」
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
107 / 229