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ペア松ワンライ、お題「約束」(数字松)
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声にならない叫び声が漏れた。
首を締められているみたいにのどがつまっていて、大きな声にはならなかった。ただ、心の中で叫んだだけですんだ。
激しい動悸とともに跳ね起き、荒い呼吸を繰り返す。
嫌な夢を見た。それだけはわかっていた。
でも肝心の内容は頭からこぼれ落ちている。何も残っていない。
じっとり汗ではりつく服が気持ち悪い。
気持ち悪い、苦しい、なんだかわからないのに鼻の奥がツンとした。いつものように膝をかかえて、感情の波がおさまるのを待つ。
あぁ、決まってこういうお目覚めの日は一日中調子が悪いんだ。
*****
「にーさん!やきうしよ!」
ぼんやり座って窓の外を眺めてたら、十四松からのお誘いがきた。すでにユニフォームに着替えてバットを抱えている。やる気満々だ。
その姿に悪いと思いながらも、なんとなく気分がのらなくて断りを入れる。
「……ごめん、今日はやめとく」
「えっ?なんで?」
「なんか、あんまりそういう気分じゃなくて……」
「あっ、風邪!?なら僕が治してあげるよ!」
「風邪じゃないから、十四松……ありがと」
心配してくれてる十四松にお礼を言うと、じーっと無言で見つめられ。
「一松兄さん、元気ないね!」
「……そう?」
「うん!わかるよ!」
自信満々に答えられる。
一番長く一緒にいる間柄だ。お互いの事はよくわかっているし、変化にも敏感になる。
ごまかしもきかない、ガチな関係。面倒な事もあるけど、それ以上に嬉しさが上回る。
自分を理解してくれる人がいるっていうのは、案外悪くないもんだ。
「一松兄さん、やきうしよ?」
十四松はそっと俺の目をのぞきこむ。
さっきまでの元気のいい声色はなくなり、やわらかく気遣うように聞いてくる。
一緒に行ってやりたい。でも、まだひっかかる感情がある。すぐには返事がでない。
悩む俺の背中を押すために、十四松は更にたたみかける。
「約束したよね?」
「約束?」
今日野球するって約束?
十四松の野球にはなるべく付き合うようにしてる。俺がやりたいからだ。だから、特に約束とかはしていないはずなんだけど。
それとも昨日なんか約束したっけ?……と、記憶を探ってみても何も思い当たる節はない。
「何の約束?したっけ?」
「したよした!」
「……なんだっけ」
「あんね!僕の行きたい所にはいつでもどこでも一緒に行くよって、一松兄さん言ってたよ!」
「……えっ」
言ってない、って一瞬思った。
ふと自分の声が聞こえる。今よりずっとあどけない声の。
『十四松、僕も一緒に行くよ。十四松の行く所になら、どこでも一緒に行くから。いつだって』
あー。どんな状況で言ったんだっけこれ?
無駄に恥ずかしいセリフだ。ってかこれ、かなり昔に言った事だよな?十四松、覚えてたんだな……
「ね、ね!言ったでしょ?」
「あーうん……言った」
「じゃあ行こ!僕ね、一松兄さんと野球したい!いつも一緒にしたいけど、今日は特に一緒がいい!」
「……なんで?」
「なんでかな!?わっかんね!」
十四松は手を差し出して、早く早くと急かす。
その勢いに負けて、手を重ねた。ぐいっと引っ張られ立ち上がる。思ってたより、自分の体が軽かった。
十四松。お前がいれば、何度でも立ち上がれそうだよ。
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