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それから、3年後。
予期しなかったチャンスが訪れる。
正式な人事が決まるまでの3ヶ月間、臨時で配属する事になった部署に、偶然にも、彼がいたのだ。
まだ名前も知らなかった柘植さんを見つけて、すぐに駆け寄った。
「お疲れ様です!」
開口一番は定番の挨拶でしかなかったが、きっと俺に気付いてくれる、懐かしみ労ってくれると、思っていた。
「お疲れ様です。あっ、はじめまして。柘植と申します。よろしくお願いいたします」
返ってきた『はじめまして』の挨拶に、愕然とした。
(まさか……えっ?嘘だろ?覚えてない!?あんなに色々世話した相手を覚えてないとか、そんなのアリ!?あ……でも、もう3年も前の事だし、忘れていて当然か)
いっそのこと、正直に話して礼を言おうとも考えた。
でも、俺にとって大切なあの時の思い出は、柘植さんにとっては、思い出す事も不可能な程、些細な出来事なのかもしれない。
思い出してもらえなかった場合を想像するだけで、ダメージが酷かったので却下した。
その後も、さりげなく、思い出してもらえるようにアピールはしてみたものの、柘植さんは一向に気付く気配もなく、ただの上司と部下の関係が続いて、日に日に俺は焦れた。
刻一刻と近づく3ヶ月のタイムリミットと、いつまでも縮まらない関係に不安を募らせる。
酒の席で酔った勢いで友人に相談すると、呆れられた。
「たったそれだけの事をずっと気にしてるのは、お前だけだって。打ち明けたところで『はい。そうですか』で終了するに決まってる。悩むだけ無駄無駄」
と、鼻で笑われて、心底頭にきて友人を怒鳴っった。
「訳わかんねーよ!!お前はソイツと一体どうなりたいんだよ!?ただ礼を言えば、それで済む話だろうが!!」
そこまで言われて、やっと、自分の気持ちを自覚する。
感謝の気持ちが、いつの間にか恋心に変わっていた事に気づいていなかったのだ。
あれから色々あって現在に至る。
望み薄だった中、何とか恋愛成就を果たしたけれど、この一連の出来事は、柘植さんが聞いてこない限り、話すつもりはない。
柘植さんにとっては何気ない日常の一コマだったとしても、俺にとっては『かけがえのない思い出』にかわりはないのだから、それだけで十分だ。
end.
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