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驚きの3
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その後詰所に戻るまで、同期2人は魂が抜けたようにぼうっとしていた。
同じ騎士でも2人はよその所属だし、巡回の戦力として当てにしていた訳じゃないが、様子がおかしいなと思う。
群がる女達には愛想いいし、夜遊びも程々にしてはいたが、仕事には誠実だったハズだ。なのに、巡回中にこれ程ぼうっとするなど、一体どうしたのだろう?
首をかしげながら詰所に戻ると、他を巡回して来た仲間も戻って来た。
「中心街は異常ありません」
「東地区も異常なし」
それぞれが簡潔に報告していく中、1つだけ報告されたのが、狼の遠吠えだ。場所は南地区、山の方から聞こえたという証言があったようだ。
南地区といえば、王都への道のある方向だ。
「お前らは何か聞かなかったか?」
ふと思いつき、部屋の隅で見学していた同期2人に話を向ける。
オレの問いにハッと顔を上げた2人は、しばらく記憶を探るように黙考していたが、結局「いや……」と首を振っただけだった。
「野生動物の遠吠えなんか、気にしたことないからな」
と、そう言われれば確かにその通りかも知れない。2人ともオレと同じく、王都出身だ。オレだってこっちに赴任するまで、実際の遠吠えを聞いたことがなかった。
「狼か……」
騎士団支部長が、小さく唸って腕組みをする。
山の向こうまでは、うちの騎士団の管轄じゃないから、そこまで踏み込んで行くのもためらわれる。
何しろ、うちは慢性的に人手不足だ。
その上狼の群れが相手だと、騎馬もあまり役に立つとは言い難かった。
「南側、当分は要注意だな。警戒を怠るな」
支部長の言葉に、みんなが「はっ」とうなずいて、午前の報告会は終了になった。それを見計らったように、「アルト」と廊下の向こうから呼ばれる。
「奥方がお見えだぞ」
その知らせについつい顔が緩むのは仕方ないことだろう。
「ああ」
オレが返事すると共に、仲間たちの間にあった緊張も解けていく。
廊下に出ると、妻がいつものように少し居心地悪そうにしながら、弁当の包みを抱えて待っていた。
「旦那様」
オレを見るなり、白い顔がほわーっと緩む様子が可愛い。
「来たか」
ニヤッと笑いながら妻を迎え、細い腰に腕を回して演習場の方に連れて行く。妻の姿を見て、演習場にいた義父も片手を上げて笑顔になって――それは相変わらずの光景だった。
妻を馬に乗せてやり、学校まで連れて帰ってやるのもいつものことだ。
結婚してからしばらくは、妻が馬に乗れるのも知らなかったくらいだが、見事に馬を操ると知った今でも、こうして2人乗りするのは悪くない。
腕の中に囲うようにして、妻の白いうなじを見下ろす。
オレの視線に気付いてるのか、白い肌がじわじわ赤く染まってく様子が、何とも色っぽくてそそられる。
ふふっと笑みを漏らし、そのうなじに軽く唇を落とすと、妻が「うひゃっ」と声を上げながら振り向いた。
何とも色気のない悲鳴だが、そんなとこも悪くない。
「も、もう、旦那様っ」
赤い顔してぽかっとオレの胸を叩き、文句言う様子も悪くなかった。
妻を学校まで送り、子供らと共に見送られながら、再び馬を駆って詰所に戻る。
午後からは剣術訓練、その後日が暮れる前に、騎馬での巡回がある。
剣術訓練には同期2人も参加して、こっちに赴任して以来、1年ぶりに剣を合わせた。
以前から2人に負けた事などなかったが、今回はやけにあっさり勝ててしまって、自分でも意外だった。2人が弱くなったんじゃなけりゃ、多分オレが強くなったんだろう。
毎日剣の素振りは続けていたが、妻の影響も少なからずあると思う。
「負けた方が勝った方の要求を1つ聞く」という3本勝負は、以前のように大袈裟にはしないものの、時々妻との間でこっそりと行っていた。
審判も観客もいない、庭で行う2人だけの試合。
妻がたまにムキになってくるから、オレも真剣にならずにいられなくて、いい鍛錬になってるに違いない。
「アルト……お前、腕上げたな」
同期達の称賛に、「妻のお陰だな」と返事したのも、ほとんど本音に近かった。
その本音の中に、わずかにノロケが混じったのに気付いたのだろう。「お前、幸せそうだなぁ」と、しみじみ言われた。
「奥方のような、ああいう子が好みなのか」
「そりゃ王都にはいないタイプだわ」
2人の呟きに、「だろうな」と同意する。
王都での騒ぎや、女どもの図々しさには心底うんざりで、鳥肌が立つ。オレには妻のような、大人しく従順な男がぴったりだ。
その上彼は、剣を持つと豹変する。あのピリッとした殺気を思い出すたび、別の意味で鳥肌が立った。
ふっ、と頬を緩めると、目の前の同期達が「うぐっ」と妙な声を上げた。午前の巡回中にも似たようなことが何度もあったが、何なんだ?
「さっきから何だ?」
じろっと睨んで問いただしたが、「いや……」とか「まあ……」とか言われるだけで、結局理由は分からないままだ。
何もないなんてことはないだろうと思って、更に問い詰めようとしたら、目の前にスッと見覚えのある紙包みが差し出された。
黒とピンクの派手な色遣いのそれには、覚えがある。
「お前みたいな朴念仁は知らないだろうけど、こういうの、王都で流行ってんだよ。土産にやるよ」
そんな言葉と共に、紙包みを強引に手渡されて、「は?」と口を開く。
「朴念仁?」
無口で無愛想だとはよく言われたが、もしかして朴念仁とも言われていたんだろうか? あまりいい意味には聞こえなくて、ムカッとする。
だが、そのムカつきも、紙包みの中を覗いて一気に冷めた。
「あの奥方にはどうかと思うけどな、たまにはいいんじゃないか?」
「無茶させんなよ」
同期らの言葉を聞きながら、「どうかな」と呟いてニヤッと微笑む。オレの顔を見て、また2人は妙な声を上げたが、もうあまり気にしないことにした。
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