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二十九
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皓月を伴って本家に帰ると、見慣れない男を連れてきたためか組員がざわめいた。
いかつい視線を難なく受け止めた皓月は涼しい顔をしている。
格の違いってやつだ、余裕たっぷりな皓月に比べて若い者は腰が引き気味。
そして奥から田倉が現れた。誰かが呼びにいったのだろう、威圧感満載の男と若頭が帰ってきました!どうしましょう!そんな事を言ったに違いない。
「おかえりなさいませ。」
「オヤジはいる?」
「今は出ておりますが、まもなく戻ります。奥へ。」
田倉は招き入れることで了承した意を伝えてくる。そちらはどなたですか?なんて聞きもしない。
長年この屋敷を守っていれば視線一つで相手の力量が計れるのだろう。皓月がタダ者ではないこと、俺の落ち着きぶりから害はないと判断したはずだ。
つねに無駄のない男、そして無口。
通されたのは応接室で助かった。畳の上に座るのは得意じゃない、背もたれがない場所に長い事いると体が痛くなる。
何も言わずに部屋を出た田倉は、すぐに戻り冷たい水をもってきてくれた。俺はつねにミネラルウォーターを飲むから有難いが皓月には何も聞かなかった。
だまってグラスとピッチャーを置く。
「オヤジさんが戻ったら、こちらにお連れします。」
「そうしてくれ。」
軽く頭をさげ田倉は静かに出ていった。
氷とレモンが入ったピッチャーには、なみなみと水が入っている。
二つのグラスに水を注ぎ皓月に渡す。さっぱりとしたレモン水はすこぶる旨かった。
「あの男は?」
「田倉っていう男。長年この屋敷を取り仕切っているから田倉がいないと何事も滞ってしまうだろうな。俺の母親は姐さんらしいことを一切しなかったから、田倉がその役回りをしている。」
「出来る男だな、あれは。」
見るだけでわかるわけね。俺にとっては穏やかな和服姿の静かな男でしかない。音をたてず大きな声をあげることもない。表情だってあまり変えない。
田倉も皓月を見て同様の判断をしたのだろう。キレ者同士、匂いをかぎ分けたってところだ。
この男について香港に行くことにした、なんでって?惚れたから。それをオヤジに言わなくちゃいけないのに何故か心は穏やかだった。緊張もない。
皓月も同様、すっかり寛いでいるように見える。なんだろうな俺達・・・。
男同士だっていうのに、随分落ち着いて現状を受け入れている。でもしょうがない、ピタリと合わう自分の半身を見つけてしまったのだから、男だろうが女だろうが関係ない。
ピッチャーの水が半分に減った頃、『お疲れ様です!』と複数の声が聞こえたのでオヤジの帰宅がわかった。野太い声の連呼は聞きなれたものだが、皓月は少し驚いたようだ。
「随分大きな声だ。私の所では静かに出迎えるものだが。」
「ノリが体育会系なんだよ。」
「タイイクカイケイ?聞きなれない言葉だ。」
「運動部みたいなものだよ。上には絶対服従、その気持ちとやる気はデカイ声によって証明されると思い込んでいる。小さい声しかでない奴は怠けていると見られる。
俺がその典型、あんな声だしたくもないし啖呵もきれない。」
皓月はふっと笑った。笑うことのない男だったのに、わずか1ケ月くらいの間に表情が変わるようになった。俺の存在がそうさせているのだろうか・・・少し照れくさい。
「ヨシキに啖呵など必要はない。冷淡だと怖れられる私を視線ひとつで黙らせるじゃないか。
声をはりあげなくても充分な威力だよ、私にとっては。
それに、今はなんだか可愛い顔をしていたぞ。何を考えていた?」
バシっと腕を叩いてやった。絶対言うもんか、恥ずかしい。
「押し倒せないのが残念だな・・・。」
「コウ!何言ってるんだよ、こんな時に!」
ガチャっとドアの開く音。
「ほとんど家にいないから家出でもしたのかと思っていたぞ。」
オヤジは皓月をちらっと見て、俺達の前に座る。
田倉は音もなく部屋を出ていき、三人に沈黙が流れる。
「さてと、どんな用向きだ?単刀直入に。そして自己紹介もお願いしようか、皓月さん。」
皓月の瞳がぴくりと動いた。
見限られたとばかり思っていた俺は、皓月の存在を知られていることに驚き言葉を失った。
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