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五十六
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「予定変更?」
「わかったのか?」
「詳しくはわからないけど、変わったことだけ理解できたよ。そうなると洋服屋さんがこないってことなのかなって。」
そのとおり。まだ若い職人だが腕とセンスが気に入り、この5年ばかり贔屓にしている店だ。そこの店主が電話で泣きついてきた。
今日の9:00にどうしても時間を空けろとごねられた-相手は大龍。
日々過去の遺物と化していく自分と周囲を認められないのか、私の邪魔をすることを生きる糧にしている。
今日のようなどうでもいい事にチャチャを入れて私の予定を崩すのだ。
大事な商談にこのようなことをされたらタダではおかないが、文句を言うのも面倒だという程度の嫌がらせをしてくる。それに対して反応するほうが愚かというもの。
眼中にないという意思表示を含め、いっさい無視をきめこんでいる。
「今日の採寸はなしになった。後日また日をあらためる。すこしゆっくりできるかと思ったのだが、うるさい男が逢えと突っついてきた。採寸の時間が空いたから、その時間に逢うことにしたよ。僅かな時間しか取れない言い訳には好都合だ、キャンセルされた突発の空き時間だからな。」
「採寸がなしになった事わかったのかな、その煩い男は。」
「偶然だろう、毎日3度は連絡してくるぐらいだからな。」
「それじゃ、そろそろ出る?」
「そうだな、9:00すぎに出ることにするよ。身支度をしなければ。」
「俺も浴衣に着替えるよ、服は暑い。」
連れだってダイニングをでて二階に向かう。9:00過ぎにでれば9:30のアポには間に合う、5~10分遅れたところで問題ない。
緑湖・・・。深く水をたたえた深い緑色の湖面は美しい。しかし、緑は黄色と青の中間に位置している。暖色と寒色の狭間。この男を蝙蝠とよぶ人間もいる、風見鶏と揶揄する者もいる。
世の情勢を掴み、付く側を決める。満ちた湖の水は潤沢で魅力があるが、私は正直決めかねていた。緑湖がすり寄ってくるのは文字通り、私を大龍と認めてのことか。それとも他者にすりよるための餌として私を手懐けるつもりなのか・・・まあいい、腹の探り合いをお互いにし合うまでの事。
自室の前でヨシキを抱き寄せ唇を塞ぐ。3秒を超えるとヨシキは身をひねってしまうのだ。
「仕事だ、仕事。」そう言いながら私の頬をぺちぺちと叩く。
出掛ける時の毎朝の儀式だ。そのあと私は部屋に入り、ネクタイを締め上着を着る。
部屋をでるとヨシキがそこにいる。
「イッテラッシャイ」を言う為だけに。
だから私は言う「イッテキマス」と
「じゃあな。」
ヨシキはそう言って私の背中を二度ほど叩く。行ってこいの合図だ。
私の姿が見えなくなるまで背中を見詰めるヨシキ。
私はいつもこの瞬間、仕事に行きたくない!と怒鳴り散らしたくなるが飲み込む。
無事に帰ってくれば・・・問題ないと自分に言い聞かせながら。
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