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目が覚めればいつも
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あれから1週間程が経った今日。
念の為を重ねた検査入院を終え自分のマンションに戻って来ても大した感想はなかった。裁判が始まるまで何度か大人たちがいろいろと話を聞きに来たけれど、もうあまり思い出したくない。疲れた。
岬は実刑を受けた。僕が受けた精神的被害は多大なものとして結局執行猶予も付かず、都内の刑務所で服役することになった。家族には勘当されたという話も聞いた。これでいよいよ僕は本当に岬の全てを壊してしまったらしい。
「…学校、辞めよう」
とっくに提出期限の切れたレポートがベッドサイドに散らかっていて、はあ、とため息を吐いた。確かあの日、カフェに行く前に鞄から出していったっけ。僕はその数枚のレポートをそのままゴミ箱へ突っ込んだ。
呆然と立ち尽くして、自分の元へと戻って来た携帯電話を取り出した。取り敢えず連絡すべきは…バイト先?それ位しか思い付かない自分の交友関係の狭さに、今更傷付いたりはしないけれど。
レースのカーテンの隙間から外を眺めた。この部屋は解約してもいいものなのだろうか。父名義で家賃は多分そこから落ちているのだろうけど、詳しい事は何も知らない。
徐ろに検索エンジンに部屋探しのサイトを入力し、画面をスクロールしていく。そもそも、学校を辞めて引っ越したところでどうするのだ。出来る事なら僕を知る人の居ない遠い所に行きたい。
「…何やってるんだろ、僕」
心からの言葉だった。口にしてみて初めて自分の情けなさというか遣る瀬無さというかを、ひしひしと感じて嫌になる。ベッドに倒れ込んで枕に顔を埋めれば投げ出した携帯電話がコトンと音を立ててフローリングへと吸い込まれて行った。
すう、と息を吸い込んで目を閉じる。
僕1人だけの空間に少し落ち着く。でも静かな空間はどこか寂しくて、でもこれからはそれに慣れないといけないだろう。きっと、ずっと1人だ。
眠りに落ちそうな微睡みに僕は身を委ねる。ふと目尻から流れた涙が枕をうっすらと濡らして、早く連れて行ってくれと言わんばかりにもう一度目を瞑った。
*
_____________なんだか心地良い。ふわふわするというかあったかいというか、何だろう。大きな手が酷く僕を安心させる。どこか懐かしい。夢を見ているのだろうか。
「…あ、起きた」
瞼を持ち上げるとぼんやりとした視界に晴がいた。この感じなんだかデジャヴだ。寝惚けているせいかただただじっと晴を見詰めた。
「どした?調子悪いか?」
僕の髪を撫で僕の顔をぐっと覗き込む。さっきの気持ち良かったのはこれか。思わずその手に擦り寄りたくなる衝動を抑えた。
「…それこっちの台詞」
「え?」
「なんでここに居るの」
晴はきょとんとした顔をして、僕を見る。わざとなのか何も考えてないのかどっちだ。あの日、僕がどんな気持ちで想いを伝えたと思っているんだろう、こいつは。
今思い出しただけで苦しい。ずっと隠し通してきた晴への気持ちをあんな風に打ち明けたなんて。
「いや、チャイム鳴らしてもお前出てこねえし。そしたら鍵開いてたから。呼んでも返事ないからどうしたのかと思って入った。」
「…馬鹿」
晴が何を考えているのか本気で分からない。
無かった事にしたいのだろうか、僕が晴を好きだということ。それともやはり暇潰し?もう、分からなすぎる。
「もう来ないでって言った」
「ん、言われた」
「…じゃあなんで」
上手く言葉にならない。僕の頭を撫でる晴の手をやんわりと振り払い僕は体を起こした。ベッドサイドに腰掛けている晴を見て、また苦しくなって、意識が覚醒するにつれてまたどうしようもなくなる。
「もー分かったって、とりあえず飯食おうぜ。そろそろ腹減る時間だろ」
19時前を表示した携帯電話のディスプレイを僕に見せて晴は立ち上がった。
「焼きそばで我慢な。俺がちゃちゃっと作れるのこれくらいだから」
来る前に買い物を済ませて来ていたらしい晴はスーパーの袋から材料を取り出しながら台所に向かった。心なしかその背中は楽しげで僕をますます悩ませる。本当に何しに来たんだ…。
「…好きだから、これ以上一緒に居たくないんだってば」
聞こえないように呟いて、その背中を睨み付けるとちらりと振り向いた晴と目が合って、なーに拗ねてんだよ、と笑われた。
人の気も知らないで、どうしてこうも僕を惑わせるのだろう。
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