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声の限り28
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あれから外の世界では、どれだけ経っただろう。
広い家にひとりぼっち、俺はいる。
ピロリン。
LINEの通知で目が覚めた。
背伸びをしてみれば、気持ちが落ち着く。
窓の外を見下ろしてみると、伊達工の生徒が登校していた。
真っ白な世界に、深緑色の制服が映えていて綺麗だ。
東京ではお目にかかることのない、一面の雪景色。
パジャマのまま俺は窓を開け放った。
暖房の聞いた俺の部屋に、気持ちいい冷気が入り込む。
「茂庭さん…」
今まで涙を我慢しすぎて、もう渇いてしまったみたいだ。
泣き方も忘れた俺の隣で、深緑色の制服が、慣れない宮城の冬に凍えながら泣きじゃくってる。
ピロリン。
またLINEの通知がきた。
たまには見てみるか。
最後にLINEを開いたのは秋真っ盛りの頃だったような。
開いてみると、2ヶ月分溜まっていて、通知は全部で3000を越えていた。
「これはすごいな…」
さすがに驚いた。
今日の朝来たのだけでも、30件。
『福永、学校には来ないのか。茂庭さんが心配してる。茂庭さんはお前のおかげで笑顔を取り戻したよ』
二口からのLINE。
そうか、茂庭さんは笑顔でいられてるのか。
そういえば二口とはだいぶ連絡をとってない。
声が戻ったことも知らないんじゃないかな。
俺には、誰にも言っていないことが2つある。
1つはそう、声が戻ったこと。
それは突然だった。
つい2週間前、あるお笑い番組を見ていた。
新人の芸人だろうか、見たことのないコンビが画面に映る。
その2人のギャグは出演者の中でも群を抜いていた。
リズミカルなテンポに合わせて繰り出されるそのネタは、お笑いに厳しい俺も見いった。
そして思わず吹き出した。
「あははっ」
それからずっと声は戻ったままだ。
理由はなんとなくわかってる。
それは多分、俺が今自分は幸せだと思えたから。
親を失った悲しみはまだ完全には消えてないし、消したらダメだと思う。
富江のことでストレスは増す一方だったし、バレーという生きがいすらなくした。
でも、一番大切だったバレーを捨ててまで守りたいと思える人に出会えた。
それはすごく幸せなことで、奇跡なんだ。
それに、誰かの幸せの為に自分を犠牲にできた俺が誇らしかった。
二口には伝えるべきと思いながらも、自分から一線引いてた気がする。
二口と連絡をとってしまえば、学校に行きたいと思ってしまいそうで怖かったから。
そしてもう1つ。
それは、あの騒動があった次の日。
俺の下駄箱に手紙が入っていたこと。
差出人は富江快斗だった。
『退部してくれてありがとう。
君が理解ある人でよかったよ。
約束通り、二口と茂庭には手を出さないし、他の部員にも関わらない。
でも、君は例外だ。
学校に来ないことをオススメするよ
富江快斗』
確かに、俺に手を出さないとは言ってなかった。
理屈っぽい人だなぁ。
でも、俺が学校に行ったら周りに迷惑がかかるのは確実だ。
ドラマや漫画なら、主人公は屈せず学校に行くんだろう。
でも俺にはそこまでの強い精神はない。
俺は、ヒーローにはなれない。
だから、俺は不登校にならざるを得なかったんだ。
『行かないよ。でもね、2週間前、声が戻ったよ』
そう二口に送った。
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