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01.よるとひなた
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新学期。
気が付けば季節は一巡し、また春がやってきた。
今日は始業式がある為、いつもはしないネクタイを引っ張り出し、慣れない手つきで締める。
少し曲がっている気もするが、自分にこれ以上の出来は期待できそうもない為、仕方なく妥協した。
ネクタイが曲がったまま朝食を済ませ、電車に間に合うように家を出る。
とは言っても、自宅から駅までは徒歩5分の距離だ。所謂、駅近物件。
親が仕事で海外を飛び回っているため、ほぼ一人暮らしに近い生活を送っている。
まぁ、一人で暮らすには広すぎる家だが広い分には不自由はない。
「世留くーんっ、おはよっす。」
改札でSuicaを滑らすと、後ろから肩を叩かれた。
朝から目に痛い金髪に、申し訳程度に首からぶら下げたネクタイ。間延びしたふざけた喋り方。
こんな知り合いは一人しかいない。
「真緒。珍しく早いな。」
「さすがに新学期早々遅刻ってのもねー。ケジメ、って必要デショ?」
「いや、お前の口からケジメなんてきいたの初めてなんですけど。」
神崎 真緒。
物覚えがついた時には既につるんでいた腐れ縁の仲。
何事においてもいい加減で楽天家。そして、やたらうるさい。
人からはよくタイプが違うといわれる人種の奴だが、こうも違うと一転して合致してしまうもので。
真緒とは親友というよりは悪友に近い。俺はそう思っている。
「お前ネクタイの結び方わかる?」
「や、わかるわけないっしょ。俺は今日彼女ちゃんの家から来たからやってもらった〜。」
生粋の女好きである真緒はよく彼女が変わる。
今の彼女とは珍しく長く続いていて、確か8つ年上の医療事務をしている女性だとかなんとか。
どこで出会ったのかは知らないが、とにかく奴は恋多き男だ。
「へぇ、随分とお熱いことで。」
「またまたぁ〜。世留くんだって、ネクタイを結んでくれる女の子の一人や二人いるでしょうに。」
「俺は当分そういうのいいって。」
枯れてんなーと抜かす真緒の首を絞めている間に、電車は目的の駅に到着した。
同じ制服を着た学生達がぞろぞろと電車を降りるのを見て、俺たちも早足でそれに続いた。
朝の駅は騒がしい。
急ぎ足のサラリーマン。ヒールを鳴らして歩くOL。友達同士でお喋りをしながら歩く学生。
まぁ、隣に騒々しい連れがいる時点で、自分もそのうちの騒がしい群れの一人に違わない。
「今日から新しいクラスかー。俺って人見知りだから友達出来るか不安だわぁ。」
「コミュ力カンストしてるくせによく言うよ。」
「ほら、俺のは馴れ馴れしいだけだからさー。」
「へぇ自覚あったんだ。」
駅から学校までの道はそう遠くない。うちの学校は交通の便利さと制服の評判がいいのが売りらしい。
女子生徒なんかはうちの制服に憧れて受験する者も少なくないとか。いい加減な…。
軽口も程々にして、昇降口に貼られた新しいクラス別の名簿代わりを果たす模造紙を眺める。
タッパだけはある為、上から覗きこめば人混みの中でも十分見れるわけだが、どういうわけか人垣が俺たちの為の道を作ってくれる。
ありがたいことには違いないが、これはこれで複雑な心境だ。
「ったく、お前のせいで目立つんだよバカ。」
「いやいや完全に戦犯は世留でしょ?可愛子ちゃんたちの視線独り占めしちゃって。色男だね〜。」
なにが視線独り占めだ。こんなもの悪目立ち以外の何者でもない。
白状すると、自分の見目が人よりも優れているのは否定しない。だが、この悪目立ちの要因の殆どはこの隣の男にあると思うのだ。
ナンパ、合コンと散々人を連れ回すせいで、俺までもが女百人斬りだとか噂され、珍妙な誤解を被っているのだから。
「俺も世留もA組。行くべ。」
「……まじか。」
薄々感じていたが、2年次も同じクラスとは。
いよいよ頭痛がしてきた。
そんな、新学期の朝。
二年A組の欄に、
浅陸 世留
神崎 真緒
の文字を見つけ、ガッツポーズをする同じクラスの女子生徒が多数いたことを、当の二人は知る由もなかった。
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