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翡翠と白鷺(青)-2
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決して狭くはない武道場を所狭しと円を描くように進みながら繰り出される技の素早さは天空に羽ばたく白い鳥を彷彿とさせて全身に鳥肌が立った。
それだけでも十分凄いのに、背中に巻き付けるように高く遠く蹴りあげられた脚は洗濯物干しのロープから吊るされたミットを次々と正確に射抜いて行く。
パシン。
パシン。
まるで背後に目を持っているかのように寸分違わず当てられる攻撃を見て、この人の背後にだけは立たないでおこうと思った。
武道とか今まで全く興味がなかったから人の演武を見て心が動かされるなんて体験生まれて初めてだ。
中に入ってその空気に溶け込みたいと思ったけど引き戸を開けたら大空に翔んでいってしまいそうで戸の前に立ち尽くしてしまった。
ひとしきり道場内を旋回したところでその人は羽を休めるように道場の真ん中で胡座を組んで座り込んだ。
どんな顔をしているのか近寄って見てみたいけど勝手に入っていいかわからないし、引き戸の隙間から首だけ突っ込んで中を観察してみる。
すぐ左の、手を伸ばせば届きそうなところに背の低い棚があって、きちんと畳まれたこの人のだとおぼしき制服が載っている。
ちょっとびっくりしたのはワイシャツの上に置かれたネクタイが格子柄だったこと。
こんなに上手いんだから沢井流コースの人なんだと思ってた。
道場はだだっ広いだけで殆ど何もなくて、すぐ見終わってしまったから真ん中に座り込む人をガン見するけど全く動かないからちょっとつまらない。
白い道着はさっきの子供軍団と一緒だけど、帯の色は子供の締めていたカラフルな色帯と違って最高位を表す黒だからやっぱり凄いんだ、この人は。
普通科でもこんなに上手い人が居るんだから俺も練習したら鳥みたいになれるかな。
辺りを見渡してみても人の気配がないからさっき見た技をちょっとだけ真似してみたくなった。
確か片足で立ってもう片方の脚は背中の後ろにぐるんと回して。
黒帯の人間でも息が上がるような動きをド素人が見よう見まねで出来るはずがない。
でも目の前でいとも簡単に次々とやってのけるのを見せられると俺でも出来るような錯覚に陥ってしまったんだ。
「痛ったー!」
背中と脚の付け根の関節がペキッと音を立てた。
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