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机の上へ何本目かわからないボールペンを投げ捨て、原稿用紙をトントンと揃える。
数えた数が正しいなら573枚あるはず。
「…少しねちっこ過ぎたかな。」
なんて。
原稿用紙の端をいつも通り紐で縛り、それから痣になった手を軽く握ってまた開く。
あれから何日経ったのかな。
携帯の電源ボタンを押しても電池不足でつかないってことはもうそれなりに経ってるらしい。
いい加減寝ないと死ぬかもしれない。
その前にあの人に取りに来てもらわないといけない。
仕方なくリビングへ向かい置き電話の受話器をとる。
窓の外は真昼でベランダには雀が止まって楽しそうに散歩中だ。
『俺だ。』
「出来ました。」
『…もう書き終えたのか?1冊?』
「はい。すみません、今は何日ですか?」
『11月の6日になるな。正直お前の才能は気持ち悪いレベルだ。』
「ありがとうございます。玄関で待ってるので家まで取りに来て貰えますか?あと、なにか食べ物と飲み物をください。死にそうです。」
『わかった。今から向かう。…寝るなよ。』
「努力はします。」
今回は書くのに少し時間がかかったな。
なんて思いながら、重い体を引きずって玄関まで向かう。
これを渡して今日は寝てまたそれからは目覚めたら考えよう。
仕事は来るのだろうか。
もしかしたら世間はもう俺を求めてないかもしれないから。
そしたらそれで また考えよう。
玄関へ座りぼーっと扉を見つめる。
思えば生まれてから、ずっと扉を見つめているような気がする。
あ、 ダメだ。
眠い。
「藍川さん、起きてください。もうお昼ですよ。」
いつもの彼の声で顔を上げる。
「…あれ。」
目の前にあるのは扉だけで誰の姿もない。
当たり前だ。
俺から あの子を突き放したんだから。
もう出会うことはないんだから。
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