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「…あ、その。遅くなっちゃってごめんなさい」
「いいよ。今日はどんだけ遅くても待ってるつもりだったから」
俺の言葉に、真島がヒクリと肩を揺らす。
真島が例えビビって逃げ出したって待ってやるつもりだった。
まあコイツが俺を置いて逃げるなんてことはありえないが。
そんな事を思いながら、ふと気付く。
「あれ、お前ボタン全部揃ってんな。ちゃんと挨拶してきたのか?」
「…え?あ、うん。その…頑張ってたくさん断ってきたんだ」
「なんで」
昨年真島が卒業するわけじゃないのに、ボタンやら何やらやたら毟り取られていたのを思い出す。
散々ボロボロにされてたが、もう制服が必要なくなる今日こそあげるべき時じゃないのか。
「お、俺はね。その…全部高瀬くんの物だから。何一つ勝手にあげちゃいけないかなって――」
真島はそう言ってモジモジと顔を俯かせる。
コイツのアホな気遣いに、無駄に心臓が痛くなる。
なに余計な会話をしてるんだ俺は。
これ以上時間を引き伸ばすなんて、無意味だ。
余計な話をするべきじゃない。
俺は一つ息を吐き出す。
「…約束、今日までなの分かってるよな」
真島の顔が一瞬強張る。
それでもまだ、泣き崩れたりはしない。
「…分かってるよ。分かってるけど…でも高瀬くん。俺はね――」
何か言いかけた真島を、俺は手のひらを向けて制する。
「ストップ。約束、ちゃんとしたよな。俺がなんのためにあの日から高校生活お前にやったと思ってんの」
ふ、と表情を崩して笑ってやる。
全くコイツは、やっぱりゴネるんだな。
まあ真島が最初から、はい分かりました、と言うなんてこっちも思ってない。
大丈夫。俺はちゃんと言える。
何度も頭で繰り返してきたはずだ。
「確かにお前と一緒にいれて、それなりに楽しかったよ。俺は男とかねーわと思ってたけど、お前はやっぱ顔いいしそこそこ遊べたわ」
軽く鼻で笑いながら言葉を紡いでいく。
真島と出会った頃の自分なら、これくらいのことを余裕で言ってのけていたはずだ。
余計なことは考えるな。
ちゃんと、言える。
俺はそんなに弱い人間じゃない。
「まーけど、やっぱり男同士はねーかな。俺はこの先結婚もしたいし、子供も欲しい。お前じゃそれは出来ねーだろ」
真島に言うことを聞かせる方法は、もう考えてきた。
こいつがちゃんと納得して俺と別れてくれる言葉。
「…だからさ」
真島は何よりも、自分よりも、考えられる全てにおいて俺の幸せを最優先させるような奴だ。
精一杯口端をあげて、真島の顔をしっかりと見つめてやる。
そんな真島に言える別れの言葉は、もうこれしかなかった。
「――真島。俺のために、別れてくれ」
はっきりとした俺の言葉が、教室内に響く。
よかった。
ちゃんと、笑って言えた。
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