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36 四重奏2
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「結構、完成度の高い作品だな」
本日の練習を終えて、佐伯は唸る。
「そうだね。ボーカルを入れて早く演奏してみたいね」
楽器を片付けながら、それぞれの意見を述べる。
今のところはミュージカルの伴奏がメインになっているので、4人はオケの練習から離れてアンサンブルの練習をしている状態だった。
「これから飲みに行く?」
「いいわね」
しかし、佐伯と横田が盛り上がっている中、関口はさっさと楽器を抱えた。
「悪ぃ。おれ、これから行くところあって」
「関口、お前付き合い悪いぞ」
「ほんとごめん!」
これから、桜のところに行かなければならないのだ。
「おいって」
「前もって言ってもらえれば。空けられるけど」
腕時計を見ながら関口は廊下に出る。
「関口!」
慌てて追いかける佐伯。
しかし、関口の姿はもういない。
「あれ?関口~?」
佐伯は、思わず関口を追いかけた。
一方の関口。
早足で歩いていで廊下で蒼を鉢合わせになっていた。
蒼も発声でしごかれてぐったりだ。
練習が終わったとこらしかった。
「関口?」
「蒼、悪い。おれ、今日も桜さんのところ行くから」
後ろから追いついた佐伯は、関口が蒼といるので一瞬足を止めた。
「分った。おれは帰るからね」
「おっけ。んじゃ!」
さっさと姿を消す関口を見送っていた蒼は、佐伯の存在に気付く。
「へ?」
一瞬、ビックリした。
見られた?
「こ、こんばんは」
蒼は慌てる。
背中に嫌な寒さを感じた。
「こんばんは」
佐伯は、ぼんやり蒼を見ている。
「あ、あの。練習終わりですか?」
「え?ええ。終わりです。すみません。お世話になりました」
ぺこっと頭を下げる佐伯。
「佐伯くん!」
おたおたしていると、彼の後ろから女性が二人追いつく。
「飲みはやめようか。関口くんも行ける時にしよう」
「そ、そうだな」
「帰ろう」
3人は蒼に頭を下げて姿を消す。
蒼は大きく息を吐く。
「は~……なんか言われたほうがまだましだな」
彼は、きっと見ていたに違いない。
だけど黙っていてくれたのだ。
沈黙ほど怖いものはない。
大丈夫かなあ。
そんな心配を感じながら、蒼は帰途に就いた。
「どうしたの?佐伯くん」
星音堂を出てから黙っている彼の様子に雪田は首を傾げる。
「え?」
「だって。黙っちゃって。そんなに関口くんに振られたがショック?」
「そんなんじゃないって。……でもあいつって不思議っ子だよな」
「不思議っ子?」
横田は苦笑する。
「そうそう。なんだか、人を寄せ付けないオーラ出してさ。コンマスになっているくせに馴染もうとしなかったりしていたのに。こうして一緒に音楽してみると、嫌な奴じゃない。むしろ、イイ感じだし。だけど、プライベートになるとまた逆戻りだ。また近寄りがたいって感じがする」
佐伯の言葉に二人も頷く。
「本当だね。こんなに一緒に練習しているのに。気軽に話しかけられないもん」
「嫌いなのかな?」
ふと呟く雪田。
「なに?」
「え、だから。人と交流するの。嫌いなのかなって」
三人は駐車場で考え込む。
「嫌いじゃないんじゃないかな?」
沈黙を破ったのは佐伯。
「なんでそう思うの?」
「だってさっきもさ……」
脳裏に浮かぶのは蒼と話している時の関口の表情。
嬉しそうだった。
生き生きしていたし。
優しい瞳で蒼を見ていた。
「あ~!もやもやする!やっぱり飲みに行くか!」
佐伯は頭を横に振る。
「そうだね」
「今度は関口くんも誘おうね」
三人は苦笑しながら夜の街に繰り出した。
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