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77.二人の関係9
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日勤。
それは星音堂職員にとったら嬉しい響きである。
しかし、定時で帰れるかどうかは別な話。
いかに残業をせずに帰れるかを調整できるのは自分だけだ。
そう。
それは自分との戦いなのだ。
17時15分。
その時間になった瞬間。
蒼はパソコンを閉じた。
「帰ります!」
「へ!?」
隣にいた星野は目を丸くする。
「おれ、帰ります。お先に失礼します!!」
「蒼?」
定時で帰れる日は年間を通じても両手で数えられる程度だ。
珍しいことである。
「すみません。失礼します」
なにか言われる前に。
「蒼!?」
慌てた感じの蒼はかなり怪しい。
星野はなんとか掴まえて、早く帰る理由を聞こうと、自分も急いで立ち上がった。
「蒼!!」
自分の後ろから追いかけてくる星野の声。
掴まったら終わりだ。
なにかあるならまだしも、逆になにもないから困るのだ。
ただ、久しぶりに二人でゆっくりすると言うことだけでは、星野は許してくれそうにない。
正直に理由を言っても、へんなかんぐりをされるのがオチだ。
だったら逃げるに限る。
いそいそとかばんを抱えながら歩いて行く。
と。
ぶつかった。
俯いていたのだろうか?
自分でも気が付かなかった。
やましいことがあると自然に俯くらしい。
目の前にいた人と思いっきりぶつかって後ろに転倒した。
「わわッ!」
蒼の転倒は日常茶飯事であるが、後ろに飛ばされるのは珍しいことだ。
びっくりして顔を上げると、相手は手を差し伸べてきた。
『ごめんなさい』
誰?
英語?
目を瞬かせる。
後ろから追いかけてきた星野も、歩みを止めて手を差し伸べている男を見つめていた。
『蒼?蒼でしょう?』
男はそういうと嬉しそうに笑顔を見せる。
薄暗いそこ。
目が慣れてくると男の輪郭がはっきり見えた。
「えっと……」
この男は。
確か。
「ブルーノ?」
ゼスプリ音楽コンクールのときにレオーネの隣にいた小柄な男。
とは言っても、蒼よりは随分大きいが……。
その男がアタッシュケースを持ちながら立っていた。
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