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84.暗闇12
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「うん。いいんだか悪いんだか、よく分からないけど。痛みは随分よくなってる。1ヶ月は楽器持ってダメだって言われちゃったし。仕方ないね」
「そっか」
しょんぼりする蒼。
自分のことでもなにのに。
「そんな顔するなよ」
「だって……」
蒼には関係ないなんて。
よく言えたものだと、今になってみると後悔する。
この男は、人の痛みを自分のことのように感じるのだ。
蒼はしっかり自分の痛みを受け止めていてくれたはずなのに。
そんなこと、とっくに分かっていたはずなのに。
「蒼にまで辛い思いさせてごめんね」
「おれは。なにも。関係ない、し」
昨日のことを気にしているのだろう。
しゅんとしている彼を抱き寄せてぎゅっとする。
「いや。いいんだ。昨日はごめん。おれも気が立ってて。蒼はおれと一緒に辛い思いをしてくれる子だから。迷惑ばっかりだね」
「そんなことないよ。おれはなにも出来ないし。おれがしょんぼりしても圭が元気になるわけでもないし」
そっと圭の左腕に触れて呟く。
「おれが替わって上げられたらいいのに……」
「蒼」
「おれだったら。左腕の一つくらい、怪我しちゃっても平気だし」
「そんなことを言うなよ」
「でも」
圭は蒼を見る。
「蒼が怪我したら、おれが心配になるだろう?いいんだよ。おれでよかったんだ。大丈夫。蒼が側でそう言ってくれたら頑張れるから」
そう。
蒼の言葉。
大丈夫って。
そう言ってもらえるとなんだか心が安らぐ。
頑張れそうな気がした。
「休みの間はおれが家事するから!」
「え、いいよ」
気合を入れて元気を出す。
塞ぎ込んでいた気持ちは完全に吹っ切れる。
「いいじゃん。ただもいられないし。家事手伝いって言うのもいいと思わないか?」
「家事手伝い?」
「家政夫蒼には負けるけど……。家事の腕はおれのほうが上だからな~」
「ええ!?そんなことないでしょう?おれのほうが上手だもん」
「そっか?掃除は苦手だし。料理も結構大雑把じゃん」
「そ、それは……」
図星である。
お互いの忙しさを省いたら。
断然、圭のほうが凝り性だ。
料理でも掃除でも、なんでも彼のほうが丁寧に行うかも知れない。
その反面、蒼は大雑把。
料理だって調理時間は短くてあっと言う間に作り上げるけど、内容は適当。
調理過程に出た洗物なんかも、そのままだ。
いつも片付けをする圭に怒られているくらい。
「なんだか燃えてきた。おれ」
主夫か。
いいかも知れない。
その合間に、桜のところで勉強して……。
自分の活動も振り返って。
ゆっくり曲想も練れるかもしれない。
そうだ。
圭一郎の演奏もじっくり聞いてみたいと思っていたのだ。
彼の出しているCDは膨大だ。
それを聞いて勉強するのだ。
ショルとの競演もいいけど。
彼との競演もいい。
彼が他のヴァイオリニストとどのような音楽作りをしていのかを聞いてみたいと思っていたのだ。
「結構、忙しいじゃん。1ヶ月で終わるかな?」
急にやる気の出てきた圭を見て、蒼は苦笑する。
圭はこうじゃないと。
いつも前を向いていてもらいたい。
自分は後ろ向きになりがちだから。
「よし!夕飯にしよう!!」
さっきまで、だらだらやっていた夕飯の作りかけがある。
それを仕上げてしまわないと。
「いいよ。おれも手伝うから」
「蒼はまず着替えなくちゃだよ!ほら。けだも!おいで」
一緒にごろごろしていたけだもは、圭の掛け声に慌てて飛び起きる。
ご飯だと悟ったのだろう。
寝室を嬉しそうに出て行く二人(一人と一匹)。
それを見送って、蒼はほっとした。
「よかった。立ち直ってくれて」
内心不安だった。
自分では圭を支えきれないんじゃないかって。
だけど。
よかった。
蒼はネクタイを緩めて、ベッドに腰を下ろした。
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