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92.家族で温泉旅行5
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「蒼!遅い!!」
部屋に入ると、さっそく陽介の声が飛ぶ。
「ごめん」
「悪いね。いろいろ準備をしてくれたんだね」
栄一郎と空は窓辺の椅子に寛いでいる。
そして、陽介と啓介はお茶を飲んでいた。
熊谷家としては、いつもの風景なのだろうけど。
ここに蒼が入ることが稀だから、待っていたのだろう。
「こんなことは初めてね。楽しみよ」
空はほんわか笑う。
「本当だ。おれたちも家族旅行ってほとんど行ったことないよな」
啓介は頷く。
「父さんは仕事で病院を離れなれない立場だったしな」
「すまないね。本当に。お前たちには寂しい思いをさせたと思っているよ」
「そんなことないと思う」
蒼は栄一郎を見る。
「父さんは、おれたちを育てるために仕事を一生懸命にやってくれていたと思う。母さんのところにも足しげく通ってくれていたし。父さんが、おれたち家族のことをどんなに心配して、気に掛けてくれていたか。おれはすっごく分かってるつもり」
蒼の言葉に、一瞬面食らったのか。
栄一郎と空は目を丸くしていたが、顔を見合わせて微笑む。
「蒼……」
「そうだよな。父さんは本当によくやったと思うよ。おれがそうしろって言われたら出来ないし」
話しを聞いていた啓介も頷く。
「そうしろって。お前」
意味ありげな言葉に陽介は啓介を見る。
「せっかくだし。ここでみんなに報告したいんだけど……」
彼は軽く姿勢を正してみんなを見渡す。
「おれ。結婚したいんだけど」
「は?」
「え!?」
「ええ!??」
一同は声を上げる。
彼に彼女がいることは知っている。
彼女が遊びにきていることも知っている。
だけど。
一番、子どもだと思っていた彼から「結婚」の言葉が出るのは意外だったのだ。
「け、結婚って。本気か」
「うん。したいって言うか。しなくちゃいけないって言うか」
「啓介。もしかして……」
栄一郎は彼を見る。
「うん。父さん、母さん、ごめん。おれ。子どもできちゃって」
「はあ!??」
一同はびっくりする。
今時、出来ちゃった婚は珍しくないが。
自分の身内から出るなんて思ってもみなかった蒼。
少し、考えが古いのだろうか?
いやいや。
順序ってあるだろう。
そう自問自答しながら蒼は黙って成り行きを見守っている。
栄一郎と空は顔を見合わせる。
「お嬢さんはなんて話しているんだい?」
「え。もちろん。子どもも生みたいし、おれとも結婚してもいいって」
「結婚してもいいって……」
栄一郎は苦笑する。
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