アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
Citrine-1
-
気配がする。わたしの、隣に。誰かがいる。誰も居なくなって久しいと言うのに。
ゆっくりと目を開けて見上げた。わたしが「起きる」ということは、彼がいる事に違いないのだから。
「またこの夢か。何と呼べばいいんだっけ?」
「何とでも呼んでいいとわたしは言った。」
やはりリュウだった。短い髪で、眼鏡をかけたリュウ。以前見た時と変わらない。どうやら、さほど時間が経っていないようだ。頻繁に顔を合わせていることに、少しだけ表情が動いた気がする。
「睨むのは止めてくれないか?何かしたか?」
「にらむ……。わたしは、不快そうに見えるか?」
「とても。」
これが、不快。なるほど、かつて一度しか見た事の無いものだ。実感というものが無かったが、これが。
ぼんやりと考え込んでいると、リュウはわたしの隣に座った。長く息を吐きながら言う。
「何故、ここは白いんだ?」
「わたしが白を見るから。」
「ずっと見たいのか?」
「特に見たいという訳では無い。」
リュウはわたしの答えに、眉と目の辺りに皺を寄せていた。確か、奇妙な物を見た時の表情だ。過去に、わたしを見て同じ顔をした者に「何故そんな顔をする?」と聞いた事がある。その者は「変だから」と答えた。
「他の色にしたいと思わないのか?」
「色が分からない。わたしは、わたしの色だと言う白にしているだけだ。」
他の色を見るのは、何だか胸の辺りが痛くなるから。わたしには分からない、何かのせいで見るのは止めた方がいいと思った。きっとわたしにとって、今この場所に「色」が無いのだ。
「色が分からない?でも、白は分かるのか?」
「いや……。「色の名前」は分かる。どういう物が何色なのかも理解はしている。」
説明が出来ない。仲間に伝える事は出来るのに、同じようにリュウに伝える事が出来ない。どうするべきだろうか。こういう場合の対応が分からない。迷った末に、わたしは出来る限り伝えてみることにした。
「じゃあ、何が分からないんだ?」
「そう、だな……。わたしにとって、色は「当然あるべきもの」だからだろう。対象に対応する色があるのは当然であり自然である。それ以上、考えたことがない。今、ここに他の色の「あるべきもの」が無い。」
「例えばこの黄色は?」
リュウはわたしの首飾りに触れた。それは白銀の細い鎖の先に、黄水晶のついた「二番目」の枷だった。そう言えば、「二番目」は何と呼ばれていただろうか。
「……ああ、これは。これは、「シトリン」のものだ。」
「シトリン?」
聞き返してくるリュウに、わたしは頷いた。「仲間の名前か?」とリュウは聞いてきたので、また頷いた。
「宝石の名前だろう?どうせ」
「そうだな。宝石商がわたし達に名を付けた時、仲間を表すものが何もなかった。だから、わたし達もその名で呼ぶことにした。」
しばらく、わたしの名前がクリスタルだった時の話だ。昨日のように思えるが、どれだけ彼等の時間が過ぎているか最早分からない。
「仲間の話、聞いてもいいか?」
「何故?」
「何も無いから退屈だ。」
退屈。つまらないという事だ。何もやる事が無いとリュウは言う。以前に会った時とは正反対の事を言うものだ。当時幼かったが、成長すれば正反対の事を言うのか。人間とは、わたし達とは本当に違う。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
3 / 7