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august.19.2016 坂口さん登場
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今日は疲れた・・・。
パーマ受付時間ギリギリに飛び込んできたお客さん。
全部終えて掃除をして店を出たのは22:00を回っていた。地下鉄を目指してポツポツ歩けば、すれ違う人達はほろ酔い加減。普段より少し大きい声とリアクションに笑顔を添えてグループで移動している。地下鉄の最終までまだ少しあるから、もう一軒!!なんて叫んでいるスーツ姿の男性たちもいる。でも結局終電逃しちゃうのよね。飲んでいるときの時間は感覚がずれてしまうのか、まだ1時間くらいでしょ?なんて時計をみたら2時間以上たっていたりする。
そうか、明日は土曜日か・・・それは皆出かけたくなるよね。20日がお給料の人達は今日が支給日だしね。
道路の反対側に見えてきた店からは暖かい色の灯りが漏れている。道路を挟んでいるのに店内の活気が聞こえてくるような雰囲気が伝わってきた。
何事かお客さんと話しで笑っているトアさんの姿が見える。
私よりずっと遅くに帰宅するんだろうな。そんなことを思いながら足を止めることなく歩く私。もうラストオーダーを過ぎた時間だからタイムアウト。
ぼんやり家の冷蔵庫の中身を思い浮かべる。
月曜日に買った食材は残りわずかだ。水菜は食べてしまったし、葉物はキャベツしかない。キャベツの千切りをするのも面倒だし、朝冷凍庫から冷蔵に移しておいたバラ肉があるから重ね蒸しにっしようかな。
遅い時間に食べるのはよくないとわかっていても、やはり空腹を満たしてから眠りたい。
トアさんは帰ってから何か食べるのかな?
賄いがでるんだよ、きっと。賄いって憧れちゃうな。メニューにもない素敵な料理がでてきそうな感じ。
スタッフしか食べられない幻のメニュー!今度どんな賄いがでるのか聞いてみよう。
とたんに今晩の献立が残念な一皿に思えてしまった。
「ただいま~。」
とりあえず誰もいないけれど、ただいまを言う。朝は「行ってきます」を呟いてから家を出る。一人暮らしは長いけれど、なんとなく続いている習慣。
バッグをリビングに置いてすぐにキッチンに行く。小さいシンクと小さいまな板を置くのが精一杯のシンク横の調理台。その隣には2口のガスコンロがある。若い頃住んでいた家具付きの物件の台所はこれ以上に小さいまま事みたいなキッチンだった。電気コイルの熱源が1つしかなくてパスタがつくれなくて、いっつもスープスパゲティにしていた。それに比べればずっとましになったけれど、自分のために何かを作るのって、本当に億劫。買い物をして作って皿を洗って・・・。
でもコンビニのお弁当は3日続けば飽きるし、野菜が不足してしまう。できるだけ野菜を意識的に摂取することを心掛けているから、北海道の野菜の高さはどうにかならないかっていうのが悩みの種。冬場にサニーレタスが500円以上になったりするから本気で困る。健康を目指すのって結構費用がかかって実は一番贅沢なんじゃないかって最近思ったり。
深めの鍋に水を張ってガスに火をつけて小さいボウルを逆さまに置く。皿にキャベツをむしってちぎって並べる。包丁をだすのが面倒だっていうこともあるけれどキャベツとレタスは包丁を入れないほうが美味しい気がするのよね。キャベツの上にバラ肉をキッチンばさみでカットして並べて塩コショウ。お酒をふり、またキャベツをしく。
格好よく言えばミルフィール状にしますってとこかしら。
今日は3段くらいでいいかな。ラップをして鍋の中にいれる。別に蒸し器がなくたって蒸し物はできるし、あるもので代用したほうが物が増えない。フタをして本日の料理は終了。
蒸しあがるまでの時間でシャワーを浴びてさっぱりしよう。店内は涼しいけれど台風が過ぎていったあと、むわっとした湿度が気持ち悪くてペタペタする。
シャワーから出たら、空気がむわっとしていた。あああ・・・換気扇回すの忘れていた!
鍋から盛大に蒸気があがっているせいで、部屋の空気は最悪のコンディションだった。急いで換気扇を回して窓をすべて全開にして扇風機のスイッチを入れる。
バスタオルで髪を拭きながら冷蔵庫から出したのはビールとポン酢。
「いただきます!」
仕事上がり、シャワーのあと、この時にのむビールはやめられない。350缶を一気に半分くらい飲んでキッチンへ。鍋のふたをあければ程よい蒸し加減。
アツアツの皿を一回り大きい皿にのせてリビングに運ぶ。
本日の晩御飯。「キャベツと豚バラの重ね蒸し」 失敗した・・・ネギも入れればよかった。今度しそを入れてみようかな。ミョウガもおいしいかもしれない。
ジャブンとポン酢をかけてキャベツと豚肉をほおばる。これは簡単だけどそれなりに美味しいので晩御飯の定番。
テレビをつけて何となくオリンピックを見ながら黙々と食べる。
月曜日、トアさんと食べたお蕎麦おいしかったな。
「もうしばらくラーメンはいいかと思います。」
トアさんがそう言ったし、暑いからラーメンは遠慮したかった。家だったらソーメンを茹でるところですねと言った私にトアさんが「おそばにしましょう。」と言ったので大賛成。どこにいこうか二人で迷い向かった先は「まるき」
更科そばだし、落ち着く雰囲気の店なので夏の暑さから解放されそうな気がしたから。
季節のお蕎麦は「アスパラせいろ」冷やしたぬきと迷いつつ、アスパラをチョイス。
トアさんは「梅おろし」を頼んだ。うわ、これも美味しそう。蕎麦はシェアに向いていないですねと笑うトアさんを見ながら、今度は梅おろしにするぞと心に決めた。
まだ言えていなかった映画の感想を話したり、面白いお客さんがいるんですって報告や、SABUROで最近人気ですよというメニューを聞いて食べたくなったり。
私はとても不思議な感覚だった。
人見知りのせいもあって、知らない人と話すのは苦手だったりする。仕事の時は話したがらないお客さんだと助かる。でも実際はおしゃべりしたい人のほうが多いので、話題をふりつつ手を動かすから結構疲れる。何度か顔を合わせたお客さんだと気が楽だけど、初めての人はどうしても緊張してしまう。
だから合コンみたいなのも苦手。テレビを見ながらのんびり飲む一人飲みのほうがおいしい。
でもトアさんに対してそういう緊張がまったくない。むしろ楽ちんだし楽しい。押しつけがましくないから?でも映画のことになると止まらなくなるし、私の知識では処理できない専門的な単語がポンポンでてくる。それでも一生懸命その作品の良さを伝えようとする姿勢に好感。だから私も一生懸命聞くし、わからないことを聞いたりもする。
それが会話になって二人の距離が少しずつ縮まっているような気さえする。
共通の話題はまだなくて、お互い自分たちの環境のことや自分の好きな事を話しているだけなのに、気まずくもないし気を遣う必要がない。
私はこういう人に今まで会ったことがなかったから、ちょっと嬉しい。
「かわりふろふき大根・・・気になります。ぱりぱり手羽先揚げ、おばんざい盛り合わせ・・・。夜メニュー気になるものが多いのです。夜は来た事ないのです、坂口さんあります?」
「え?あ。」
「はい?」
うっかり聞き逃すところだった。
「いえ、お昼だけです。ラストオーダー22:30ですよね。早く上がれた日なら大丈夫ですけど、日によっては遅いので。」
「ですよね。僕もまるっきりダメです。お休みの日に来るしかないのか。」
思い切って言ってみよう。
「じゃあ、今度お休みの日に一緒に夜に来ましょうよ。月曜日休み同士なんだし。おまけにご近所さんです。」
トアさんは嬉しそうな顔をして私を見た。
「ですね!ふろふき大根絶対オーダーします!」
私と一緒がうれしいのか、ふろふき大根に夢中なのかイマイチ区別がつかなかったけれど、まあいっかと思える。焦ることはない、のんびりユックリが私達にはちょうどいい・・・そんな気がする。
「秋になったら中島公園つききって歩いてくるのもいいかもしれないですね。」
「ですね。」
今日が終わりじゃなくて、夜にお蕎麦を食べるという約束ができた。そして次の季節の秋にも楽しみがある。隣合った一つ先の季節の約束を重ねていけば、きっと何かを得られる。
そんな予感もやはり嬉しい。
冷蔵庫からビールを取り出し、半分くらいになった重ね蒸しの皿の隣に置く。ごはんかパンを食べたいところだけど我慢我慢。
秋には美味しいものが沢山収穫されるのだから、今から余計な肉をつけている場合じゃないし。トアさんの横に並んでブサイクと指をさされるような姿にはなりたくない。
スマホが鳴ってメールの着信。
タップすると、今考えていたトアさんからだった。
『件名:お疲れ様です』
思わず吹き出してしまう、でもトアさんらしい。
『22日の月曜日、夜まるきしませんか?』
トアさんらしい簡潔な一文。もちろんOK、断るはずがない。私だって「鴨の辛味大根え」とか「たらこいももち」が気になっているし!
ぐびっとビールを一口飲んでから返事をする。
『夜まるきしましょう!』
時間が決まるまで、何回やりとりすることになるのかな。
一人晩御飯が一人じゃないような気分になって・・・やっぱり嬉しかったり。
ゆっくり、大事にしていこう。
嬉しいがたくさん積み重なるように、ゆっくりとね。
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