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撮影旅行
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「じゃあ陽! 戸締りとかしっかりするんだよ」
「わかったよ兄貴行ってらっしゃい」
「うん、行ってくる」
まだ日も上り切らない早朝に
旅行用の鞄を持って家を出る
朝が苦手な陽がわざわざ見送ってくれて
少し心配ながらも家を開けて向かう先は
今日から五日間の県外への撮影だ
映画で使う為に借りた
大きな洋館や海でのワンシーンを撮るために必要な場所らしい
一応調べて見たら案の定
結葵君も爽さんも、それから直輝も集合した撮影になるそうだ
嫌でも顔を合わさなきゃならないのは幸か不幸か分からないなんて思いながらも、仕事を休むわけにはいかないし結葵君と口を聞かないなんて事もできるわけなくて。案外いつもと変わらない時間を過ごせてる自分の図太さに苦笑だった
「出発しますねー」
待ち合わせ場所に着くとスタッフ専用のバスに乗って移動する
俳優や女優はそれぞれ別の方法で現地に向かっている
バスに乗るのは俺達スタッフとかエキストラさん。実費じゃないだけとても助かるし同じバスじゃないのは救いだった
向こうに着けば5日間は嫌でも同じ空間を生活しなきゃならないし結葵君とずっとなんて考えるとため息も零れる
あの変な薬を使われた日以来
そういう事を求められるなんて事はなくて
ただ普通に仕事して一緒にご飯食べて
一緒に帰ってつぎの日また仕事で顔を合わせて・・・・・・
あんまりにも普通過ぎるから一体どうしたいのか疑問に思っていても「だから一ヶ月間だけ恋人になったら終わりって言いましたよね?」の返事だけで俺としては有難いけど、それをすんなり信用するのは難しい
その上一緒にいる間に交わす言葉は
ほぼゼロに等しいから尚更だ
「祥さん、祥さん」
「ん?」
「撮影の最終日に上手く終われば最後まで残った人達でご飯食べるらしいですよ!」
「え! そうなんだ知らなかった」
「ふふっん、俺もさっき盗み聞きしてきたんでコレ内緒って事で」
「あははっ、うんわかったよ」
ぼーと窓を見つめていると
隣に座っている違う事務所に所属してるアシスタントの人に話しかけられた
きっとこの事俺だけじゃなくて
他のみんなにも内緒って言い回ってるんだろうなと想像が出来てしまう
現に今さっき俺に内緒と言ったばかりで
今は反対側の席の人に話してるんだから広まるのも時間の問題だろうな
最終日ってことは直輝も来るんだろうか
それとも最近、爽さんといつも一緒に居るのを見るから二人でだけで動くのかな
ここ最近よく見た二人の後ろ姿を思い返して胸がチクリとする
付き合ってるとかそういう訳では無いだろうし、そもそも二人が親密になってるからって俺がこうして一人でモヤモヤするのはおかしな話で切り替えようと努力はするのにそれでもずっと頭から離れない
まだ直輝は俺のこと好きでいてくれた
その事実が嬉しくて堪らなかった
でもその反対に
早く他の人を好きになってその人と
直輝が楽しそうに歩く姿が見られたら
俺は楽になるのになんて事どうしても考えてしまう
最近ずっとこんなことを考えるのを繰り返してるばかりだ
撮影スタジオで見た直輝の傷ついた顔も
荒らげた声も口調もその言葉も
全部全部忘れることなく脳裏に張り付いている
瞼を閉じる度に浮かび上がるから
幾ら意識を切り離そうとしても無駄だった
「おわー! 海、海っすよ祥さん!」
「わ、っあ!」
ぼんやりしている俺の肩を掴むなりに
窓へと向かされる
驚いて見た先は冬の綺麗な海で
天気が良いこともあってキラキラと輝いていた
「泳ぎたいっす! 祥さんも泳ぎましょうよ!」
「あははっ、風邪引いちゃうよ?」
「男は風邪のこって言うじゃないですか平気ですよッ」
「うん、ちょっと違うかな」
大興奮の彼を見て確かに俺も泳ぎたくなる
だけど間違っても今は真冬の手前で
平均気温が10度とかなのに飛び込んだら間違いなく風邪ひきそう
「あ、でも撮影シーンにありますよねー泳ぐシーン!」
「え?!」
「あまつかさん!」
「直輝?!」
「そーっす! あまつかさん達はお色気シーン撮るらしいですよ」
「お、お色気って」
「あまつかさんがそう言ってました」
「……」
ああ確かに言いそうだ直輝なら
きっと彼が子供っぽくて可愛いから
イタズラに弄んだんだろう
信じきって「お色気って何すんだー」なんてワクワクしながら言っている彼を見ているとその無邪気さにほんの少し安らぐ事ができた
それから直輝が体調崩さないかなって
無理しても顔色に出ないから
それにストイックだし……
無事に撮影が終わりますようにと祈るばかりだ
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