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お忍び旅行はラブハプニング
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茶屋を出ると、次に向かったのはすぐそばの距離にある縁結びの神様として信仰を集める地主神社へと向かった。
その道中にさっき見たメモ用紙の行方が気になって頭の隅にチラつく。いつまでも悶々としているのも面倒だ。気になるなら聞いてしまおう。
「……あの、直輝」
「んー?」
「……、その、えっと……。いや、やっぱりなんでもない」
そうは思ったもののまた蒸し返すのもどうかって言葉が詰まる。
電話番号の紙を貰ったのも見せつける為にだった?ってそれだけだ。簡単なことなのになぁ。聞きたかったけど、聞けない。
「そう?」
「うん……。ごめんね」
「謝んなよ。あ、そうだ祥明後日の事で――」
さっきの話聞いたら意地悪でやってたことだって分かったけど、女の子もいいなとか直輝だって思うんだろうし。男なんだから。今は俺と付き合ってるけど元は異性愛者で、ノーマルだったわけでゲイではない。
バイってことになるのかな?とは思うけどそれは俺にも言えることだけど、直輝意外の男性に目を奪われるかって尋ねられると首を傾げてしまう。
どれだけかっこよくても好きになるなんてことは起きない気がして、俺自身もバイって事になるのかよく分からない。
だから、それに対してどうこうは言えないよなぁ。はっきりとゾーンが決まってない分ノーマルで間違いは無いだろうし。そうなると俺は何したって女の子にはなれないんだから。女の子特有の癒し方なんて出来ない。
でも出来れば、他所を見て欲しくない。
っていうのは少し欲張り過ぎかな。
「――って思ったんだけど……。って、何考えてんの? 話聞いて無かったろ」
「え?」
「……祥ってさ、自問自答する時とか拗ねてる時っていじけて唇が突き出るんだよ」
「ッ、そんな事ない! 普通の口!」
「いーや、むぅってしてる。念の為に言っておくけどさっきの電話番号は俺がメモしたやつだからな。字みたら分かると思うけど」
「えっ?!」
からかわれながら聞いた言葉に思わず大きな声が出た。
まさにその事で自問自答していたのにあっさり直輝が真実を言っちゃうから心臓が跳ね上がる。おまけにどうしてドンピシャにそのことに触れたのか、直輝って本当に凄い。
「俺がメモなんて貰うと思ってんの?」
「……いや男なら可愛い子に誘われたら、つい貰っちゃうかもなって」
「へぇ〜、じゃあ祥は可愛い子からなら貰うんだな。おまけに誘われたらしちゃうんだ?」
「はぁ? 俺は貰わないよ! ていうかそこまで言ってないだろ」
「どうして?」
もらったら直輝からの報復が怖いから……なんて言えるわけない。うん、言ったら確実にニッコリ笑顔で「よく分かってんじゃん」って言われるだろう。
「とにかく俺は貰わないの」
「どうだかな」
「貰わないってば!」
「そんなむきになんなよ」
「〜〜ッバカ!」
今更貰えるか!
これだけ惚れさせといて、こんなに不安になるほど夢中にさせておいて何を言うんだ馬鹿直輝。
そもそも夜だってあんな風に抱かれてちゃ今更……、何もかも手遅れ過ぎる。誘いになんか乗らないし乗れない。俺の殆どを暴いてるクセに嫌味な奴。
そう考えてハッとした。こうなる事を拒否していたのに随分といつの間にか絆されていたものだ。
俺っていつの間にかこんなに直輝に染まってたんだな。
自分の大半以上の感情が直輝に影響されている事実に気づく。こんなにも恋愛って大変で一喜一憂するものだったのか。四年前の俺は、多分ここまで直輝を好きじゃ無かったんだろう。
いつもどこかで、ストップをかけていた。
好きになり過ぎない様にって。いつか終わっても傷つかないように、気持ちにブレーキをかけていた。
今ではすっかりそんなブレーキ壊れちゃって自分では制御が難しい上に、止められないんだけど。
「……直輝がもし女の子としたら」
「……」
「一生エッチな事してあげないからな……ッ」
「ふっ、なんでちょっと上から目線?」
「直輝は変態魔人だから!」
「全然意味わかんないけど相変わらず可愛いってことだけは分かったよ」
「真剣なのにからかうなッ」
縁結びの神様の前で喧嘩ってどうなんだって話だ。
でも「ぷりぷり怒っても可愛いよ」なんて言われたら流石にカチンとくる。
そうやって結局いつも通り直輝と喧嘩をしていたら俺達の様子を見ていた瑞生さんが微笑しながら声をかけてきた。
「そこの二人、喧嘩もいいけどこれやってみない?」
「喧嘩してませんッ」
「……そかそか、喧嘩じゃなくて夫婦喧嘩だったね」
「瑞生さん!」
「ごめんね、冗談。それよりさ、これやろうよ。地主神社名物の恋占いの石」
そう言って瑞生さんが指さしたのは境内にある大きな石。
確か距離をおいて置かれた石から石へと目をつぶり真っ直ぐに辿りついたら願いが叶うと言われてるんだっけ。
「直くんやってみたら?」
「お前がやれ」
「年上に向かってお前は無いよね〜。 瑞生先輩って呼んでもいいんだよ? もしかして直くん、出来ないからそんな事言ってんの?」
うわぁ凄い本物だ!って黒江さんと石を見ている合間に瑞生さんと直輝に不穏な空気が漂う。
あれはあれで仲が良いからどうこうしないけど、知らない人が初めてみたら相当仲悪く見えるんだろうな。
「はぁ。めんどくさいやつだなミズキ先輩」
ひとつため息を零して先に折れたのは直輝だった。
虫を追い払う様に瑞生さんを払うと直輝が俺を呼ぶ。
「やるから、祥はそこに立ってろ」
「うん、分かった!」
それだけ言うとめんどくさそうな顔して、反対の石の方に向かう。俺は言われた通りにもう片方の石の横に立って待つと「こっちだよー!」と直輝に手を振った。
「んじゃあ、そっち行ったら俺の願いごとを叶えてね祥ちゃん」
「うん……って、それは神様に頼むんじゃ……?」
俺が叶えるっておかしい。とか思ってる間にも直輝が目を閉じて歩き出す。相当早く終わらせたいのか緊張も高揚する素振りもなく淡々とやる当たり相変わらず物事に冷めている。
それにしても、背が高いだけでも目立つのに相変わらずモデルの様にかっこよく歩くからただ歩くってだけで無駄なオーラが振りまかれてて。いや、モデルだった。仕方ないのかそれは。
だとしても俺の近くにいる女の子とか「あの人かっこいい!」って騒いでるから思わず焦って「直輝!」って名前呼んでしまった恥ずかしさに今更ながらジワジワと居心地の悪さを感じた。
なんだろう、寄りを戻して数週間。遠距離恋愛の時間は俺からなけなしの余裕ってものも同時にどこかへ奪い去ってしまったらしい。……情けない。
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