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お忍び旅行はラブハプニング
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暫くの間、路地裏の壁と直輝の腕によって押し囲まれるなか顔の火照りをさました。
貴重な時間を浪費してしまったがこればかりはもう……。直輝にいくらバレないと言われても、流石に下肢の熱そのままに公共の場を歩く勇気なんて俺にはない。
「……鼻が痛い。直輝が眼鏡とってくれないから」
「祥のキスの仕方が下手だからだろ?」
「それ全く関係ないッ」
諸々の事情が収まったとしても、気持ち的には収まらない。涼しい顔して隣を歩く直輝に小言をぶつけながら、京都の街を散策する。
ふと思うが、先ほど迄の陰鬱とした気配は姿を消していた。まだ体はほんのり熱いままだけど、触れ合えた事で分散したんだとすれば俺も直輝を攻められないと思う。
……と言うか、ムカムカしていた理由が直輝にかまってもらえなかったからだと気がついて死ぬほど恥ずかしかった。
胸中で言い訳めいた事をつぶやいて居た時ふと直輝に呼び止められる。
「祥。ここ少し立ち寄りたいんだけど」
「あ、硝子細工だ! 綺麗だね」
幾つもの店が並ぶ通りで直輝が足を止めた
そこは、老舗店の硝子細工専門店の前だった。空け開かれた表から中に並ぶ色とりどりの硝子が陽光を跳ねてキラキラと輝く。
それがあんまりにも綺麗で、見惚れていると直輝に手を引かれた。
連れられるがまま一緒に入れば外で見るよりもうんと店内は色鮮やかで、繊細な作りの置物があちらこちらにある。
なかでも動物の形をモチーフにした硝子の置物は目移りする程に可愛い。その中にあるライオンの置物を手にすると思わず頬が緩んだ。
「ぷっ、これ直輝そっくり」
「……」
半眼で何か言いたげな直輝を無視してまるっとしたそれを見せつけた。
百獣の王と言われるだけあって、可愛いのに傲慢そうな態度が素の直輝にそっくりだ。表向きはまさに猫かぶりだが。
今でさえ、口調は気障ったらしく柔らかな物になったものの。昔はそれこそ横柄な性格だったしもっと冷たかった。
今では紳士的な態度が平常運転だけれども中身は変態なので詐欺だ。
「なぁ、いつまで笑ってんの? こっち来て海咲にどれがいいか一緒に見て欲しいんだけど」
「えっ、海咲ちゃんの?! みるみる!」
俺が笑ったせいで少しだけ不満げな雰囲気を漂わせて直輝が手招く。直輝が口にした懐かしい名前に、ぱぁっと自分でも頬が綻ぶのがわかった。
海咲(ミサキ)ちゃんは、直輝の3つ上のお姉さんだ。
小さい頃から俺も仲良くしてもらっていて、直輝のお姉さんと言うよりまるで自分の姉のように親しい存在とも言える。
「海咲ちゃん硝子細工とか好きそう」
「んー顔に似合わずな」
「直輝。それ海咲ちゃんが聞いてたら完璧怒ってるよ」
「短気な性格は手がかかるな」
悪びれる素振りもない辺り、相変わらず二人は仲が良いようだ。
わざわざめんどくさがりな直輝がお土産を買う為に寄るほどだから一目瞭然だけれど。そうなると同時に気になる人が頭の中に浮かび上がる。
「お土産って、海咲ちゃんのだけ?」
「ん? ああ。他に誰かいたか?」
「他にって……皐季さんの」
「そんな人俺は知らないなぁ」
「…………」
突然こっちを向くなりニッコリと笑顔を浮かべる。
その笑顔の意味は「これ以上その名前を言うな」って意味が込められていて思わず嘆息した。
「直輝」
「なあに?」
咎めるつもりで強めに名前を呼んでも目元を緩めた直輝に甘く返事を返される。
全くこういうところ、本当に卑怯だ。
「直輝ってそういうところ確かに、一番! 末っ子って感じだよね」
「……それは裏を返せば母性本能が擽られるってこと?」
「調子乗るな」
この言い合いに決着が着く日は来ないだろう。
早々に俺が折れたのを察知した直輝は、同時に言いたい事も汲み取ったのかあやすように頬から耳にかけて触れてきた。
「そっち向いてないで一緒に選んで欲しいんだけど、だめ?」
「……直輝が皐季さんの事ちゃんと考えるならね」
「……。ったく、祥も本当に頑固者だな」
「別に、今に始まったことじゃない」
「自分で言ってたら世話ないな」
直輝に呆れられた事に益々怫然とした態度を取ると、まさかの直輝が眉を下げて苦笑を滲ませる。
「悪かった。だから怒るなよ」
「……お兄さんなのにそう言い方するな。家族は大切にしなきゃ」
「ん、そうだな。ごめん祥」
優しさを孕んだ瞳に微かばかり違う色が見える。両親を亡くした俺に、直輝はたまにこういう何とも言えない目を向けてくるけど気にしなくていいのに。
なんだかんだと言っても優しい。それはよく分かってるからこそ、尚更皐季さんに対する態度が珍しい。
直輝は三人兄弟の一番末弟だ。
皐季(サツキ)さんは一番上の長男で、昔から特に直輝を特別に可愛がっている。六つ歳が離れている事もあってか、溺愛っぷりははっきり言えば凄まじいもので。あの直輝が身を隠して逃げる程に。
「……皐季のも買って行くか」
「それがいいよ」
「祥は?」
「え?」
「皐季のあの態度」
「あ、あははっ、もう慣れたし気にしてないよ」
少しばかり逡巡した後の言葉に、どうして皐季さんのことを無視したのか理由が分かった。
「あいつ、祥にやたらと突っかかるからな」
「それは可愛い弟だからでしょ」
「……鳥肌が立つようなことはあんまり言わないで欲しいんだけど?」
さほど広さはない店内を隅々歩き見ながら肩を竦める直輝に思わず失笑する。
実際のところ、皐季さんにとって俺は目の上のたんこぶみたいな存在だ。
だからこそ、直輝が皐季さんを遠ざけようとするのが少しだけ寂しく思うのは我侭かもしれない。
こればかりは時間が必要だから急いでもから回るだけだろうし、何か行動を起こすつもりはないけど、付き合っていると知ればただでは済まされないだろうとは思う。
「皐季は青がいい」
迷うこと無く手にしたのは花をモチーフにした置物。
さすがに探していたサツキの花は無かったけど、手のひらに収まる大きさのそれは形がサツキやツツジに似ていた。
きっと、これを直輝が選んだと知ったら皐季さんは喜ぶだろう。それから海咲ちゃんにはクマとウサギが並ぶ女の子が好きうな可愛らしい置物と決めた直輝が俺を呼ぶ。
「なに?」
「こういうの好きだろ」
「万華鏡……?」
柔らかな笑みで差し出しされたのはすべて硝子で出来た十字形になっている万華鏡だ。
覗き込む穴がある縦の棒に、硝子の筒の中煌びやかで色とりどりの硝子の粒子やスパンコールが入ったもう一つの棒が横差しになっている。
覗き込見ながらクルクルと横から刺さっている硝子を回しながら左右に動かすと、キラキラとした鮮やかな光景が広がった。
窓からさす陽光にかざすと一層輝きがます。
中でも気に入ったのは鮮やかすぎるほどの濃い翠に、銀色の粒子が華を咲かせるところ。
その後からじわりじわりと赤い粒が落ちてくる。
銀から赤へ花が移り変わるのが綺麗で夢中になってその光景を追いかけ回していた。
「これ気に入った?」
「すーごい綺麗」
「じゃあ祥にはこれな」
「え?! い、いい! 俺が買う」
「面倒だから纏めて買おう。それに今は一応、祥は女性なんだし?」
「っ、な! 直輝?!」
ニヤリと笑った直輝に忘れていたことを思い出させられて、カッと頬が熱を帯びる。
恭しいまでに手を差しのべて「どうぞ?」なんてエスコートしようとするもんだから羞恥あまり気づけば肩を思い切り殴っていた。
「ッテ、……本当に直ぐ手が出る」
「……っ、俺、悪くない。謝らないからなっ」
ふんっとそっぽを向いて気まずさから逃れようとしたら、直輝から聞こえてくるのは楽しそうな笑い声。
咎めるわけでもなく、そこまで優しくされるとやっぱり罪悪感は湧くわけで、結局最後には謝っていた。
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