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手のひらから始まる恋 …最終話
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雅治さんが、時計のバックルを外した。
時計を着けてくれるんだと思って、慌てて今している時計を外して、ポケットに突っ込む。
空いた左の手首に、雅治さんが新しい時計を嵌めてくれた。
「カチリ」とバックルが閉まる音がして、その時計は俺の手首にしっとりと絡みつくように収まった。
程よい重さが幸せを実感させてくれて、我慢していた涙が溢れる。
「ん。似合ってる。サイズも良さそうだね?…良かった」
雅治さんが、満足そうに頷いた。
時計を光にかざす。
ペアウォッチなら、もしかしたらこれは女性用かもしれないけれど、デザインがカッコ良くて、男の俺が着けても全然違和感ない。
それに、文字盤のその白は、なんだか俺に似合っている気がする。
「これ…お姉さん…遥香さんに頼んだの?」
「ん?あぁ…選んだのは俺だけど、兄さんに…あ、姉貴の旦那さんに取り寄せてもらったんだ。あの人、こういうツテを持ってるから」
「えっ?取り寄せ?」
「そう。発売したばかりで、店頭で注文しても、いつ手元に来るか分からなかったから」
「へぇ」
取り寄せ…まさか海外から⁈
てゆーか、雅治さん、わざわざそんな事までしてくれたんだ。
「ね?雅治さんの…俺が着けてもいい?」
「もちろん」
雅治さんが、今している時計を外して紙袋に入れた。
赤い箱から、もう一つの黒の文字盤の時計を取り出す。
俺のより少し重いそれは、近くで見るとどうやら黒じゃなくて青っぽい文字盤だった。
雅治さんの手を取って、その手に時計を嵌めた。
「ありがとう」
雅治さんが嬉しそうに時計を眺める。
あぁ。
こんな高級時計も、雅治さんが身に付けると雅治さんの引き立て役にしかならないな。
なんて思った。
深い青も、雅治さんに良く似合う。
雅治さん、本当にセンスいい…なんて見惚れる。
やばい。
どうしよう。
嬉しすぎる。
俺、こんなカッコいい人と結婚出来るの?
俺には本当に勿体無い…
勿体無い、けど…誰にも渡したくない。
「雅治さん…」
雅治さんの腰に手を回して、ギュッと抱き付いた。
すぐに、雅治さんも抱きしめ返してくれる。
「好き」
頭に浮かんだ言葉を口にすると、雅治さんがさらに強く抱きしめてから、そっと身体を離した。
そして、俺の手を取って、ギュッと握りしめる。
「もう離さない」
その熱い瞳を見ながら、俺も手を握り返す。
それからゆっくりと近付いて来た唇を、目を閉じて受け止めた。
どちらがそうなのか分からないけど…微かに震えているキスは、俺の末端にまで幸せを運ぶ。
「ん…は……ぅ」
全身がぶるりと震えて息が上手く出来ずに、思わず吐息が漏れた。
「り…く…」
名前を呼ばれて、ゆっくりと唇を離す。
「陸と、出会えて良かった。あの日…陸が俺の手を取ってくれたことに本当に感謝する」
そう、俺が雅治さんの手を握ったあの日、あの奇跡のような出来事が…今こうして俺たちをここまで導いた。
「これから先もずっと、こうして手をつないで歩んでいこう」
「…っ、はい」
雅治さんが、俺の涙に吸い付くように、目尻から頬へと唇を這わせて…
再び唇へと口付けた。
甘い、甘いキス。
この幸せが永遠に続きますように。
そう願って、雅治さんとつないだ手を、強く握り返した。
(手のひらから始まる恋 Fin.)
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