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”9” ネコに、再び見(まみ)える王子 ‐4にしおりをはさみました!
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”9” ネコに、再び見(まみ)える王子 ‐4
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百哉がちょうど、出て来た。
「鷲尾先生に告口したの、ボクじゃないからね。ほら看護婦のちょっと派手な若い女の子。
あの子、京の遊び相手の一人なんだよね、だから、ボクのこと見張ってて。
今日のことも、彼女が京に告口したら、京、即、鷲尾先生に、言いつけたんだ」
この兄弟は、ずいぶん拗れてしまってる。
「ごめんね。それと、あとね、昨夜、説明してみた、健くんの誤解。
ボクの好きなのは、京だって、解ってもらった。だから、それは安心して」
俺が立ち入れることじゃないけど。
でも、こいつって、もっと、幸せになるために努力すべきじゃないかって思う。
「なあ、モモ。柳にちゃんと、告ってみたら?嫌われてるって決めつけないでさ。
アイツ、天邪鬼だけど、なんか偽悪臭いっておもうんだよな、やってる行動が。
モモに、ちゃんと叱られたいとかじゃ、ないかって思ったんだけど」
ひくっと身体を振るわせつつ、百哉は切なげに溜息をついた。
「京とのことは、いいよ。もう、心配しないで。
それより、健くん!すごく、今日はいい感じなんだ、ご機嫌が。上手く行きそうだよ」
2人で、そっと覗きこむと、女子達と三人で、タブレットに頭を寄せ合うようにして弄ってる。
そかそか、健に、ネットとか見せてあげてんだね。
あ~ネット環境整えてあげないとな。退屈しのぎになることも与えてあげないと。
そんなことを考えつつ、自然に話しかけられるタイミングを伺う。
会話の手段であるタブレットを、遊び道具にされていて、
健が何か言いたくなったんだろう、困って周囲を探している素振り。
ポケットに忍ばせといた、健用の筆記具を渡してあげよう。
「ちょっと~楽しそうだな~なに、見てんの?みんなで?
探し物、これかな?使う?」
驚いたように目を真ん丸にして、健にとっては急に現れたように思える俺を見る。
至近距離の健の、目力、半端ない。相変わらず、綺麗な瞳の色なんだよね、ふう。
差し出した、筆記具と、俺を何度も、見比べて、パチパチって瞬く。
長くて柔らかい睫が飾る、すっとした二重瞼の縁取り。
第一関門。
健が、俺を怖がっていないか、どうか。
俺の登場に、女性陣と百哉が緊張するのが、肌で感じる。
距離が近すぎるんじゃないかって、阿川が俺のジャケットの裾を引く。
確かに、ちょっと近いかな、すぐに抱きしめられるくらいの距離だ。
健は、震えるでもなく、ただ、驚いているだけのように見える。
もう一声、かけてみようかな。
「気に入ってくれるといいけど、アナログも結構いいもんだよ?どうぞ」
おずおずと手が伸びて、俺の手に捧げ持ってるメモ用紙と万年筆を取ってくれた。
ぺこっと、頭を下げてくれて、中を捲って、万年筆のキャップを外す。
『ありがとうございます。これ、下さるんですか?』って、懐かしい文字が真っ白の紙に躍る。
ちょっと、ハッとしたみたい。
そう、健は、ブルーブラックインクが好き。
黒よりも、ちょっと哀愁があって、でも爽やかで好きなんだって言ってた。
「もちろん。どうぞ、使ってやって下さい。安物ですが」
穏やかな滑り出しの、俺達の様子に、周囲が安堵の息を吐く。
俺も、ほっと息を吐きたいくらい。
「自己紹介しますね、俺は、佐倉爽と言います。去年の冬までは中舟生爽と言いました。
静さん、あ、健くんのお祖母ちゃんに、健くんが養子にしてもらう時、一緒にしてもらいました。
どうぞ、これからも、宜しくお願いいたします」
自然に、とにかく、自然に笑おうって、すごく意識しながら、微笑みを湛えて
心の底からの誠意をこめて、自己紹介をした。
健は、?を浮かべた表情で、首を傾ける。
あ~あれだ、また、苗字が変換できないんだな、初めて会った時もそうだったね。
俺は、メモ用紙を借りて、健の書いた字の下に、両方の名前を書いた。
俺の使ってるインクは、セピア色。
あんまり一般の店にはなくて、カートリッジ式のだと。
最近は専門店に足を運べないから、ネット買いしてる。
じいっと、俺の手元を見てた、健。
セピアインクを選んだ時、健は、「不経済だし探すのに苦労するかも」って、笑ったんだよ。
これも、2人の些細な思い出なんだけど。
『僕は、丹羽健です。名前、佐倉になってるって、本当でしょうか?』
健は、しばらく、俺の名前を眺めてから、さらさらと記す。
「はい。戸籍謄本見たでしょ。一緒に、養子にしてもらったんです。
前から、成人したら、佐倉にしてもらうつもりだったって、言ってたんですが。
中学の頃って、そうは思ってなかったですか?」
『誰にも、言っていませんでしたが、もっと小さな頃に、思いました』
「夢、叶ってたんですね。良かった」
夢、って言った俺の言葉に、健は少し顔を顰める。
えっ・・・これ、地雷ワード?
『僕は、もう、ピアノ弾いてないですよね?』
息が詰まった。6年間の健が、極力避け続けた、ピアノの音は
中学生の彼の、夢の集大成。
俺は勝手に、そんなに好きじゃなかったって決めつけてた。
「・・・・・・弾いていませんね。音を聞くのも嫌っていました。
俺は、悲しい出来事を思い出さない為に、避けてたんだと思っていました。
・・・すみません、俺、受け入れるように、してあげてなかったです」
いろいろ考えてたことがすっかり抜けていて。
けっこう、心のままに話をしていた。健は不思議そうに、俺を見上げる。
阿川が、焦って、何度も裾を引っ張るんだけど、
やっぱり、嘘つかなくていい所はつきたくないんだ、俺。
『僕達は、仲良しだったんですか』
・・・・・・ううっ。
それって、思いっきり核心を突いて来てます、健くん。
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