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俺が桃ちゃんの家に来て30分は経っていると思う。その間、蛍光灯の交換と掃除をさせられていたらしい美馬さんは、ぶつぶつ言いながらも掃除のセットを桃ちゃんへと返した。
そして3人そろってリビングで寛ぐ。そう言えば、この3人の組み合わせって初めてだと気づく。
歩はまだ寝ているのか連絡はなく、拓海は用事があって忙しいらしい。リカちゃんも午前中は仕事で午後からは問題児の家……初めての組み合わせで、少しだけ緊張していると不意に美馬さんが俺を見た。
「悩める子ウサギ……」
美馬さんがぼそっと呟いた後、桃ちゃんを見た。
「違うわよ!原因はあたしじゃなくて、あの変質者よ!」
「ああ、リカはまた何かしたのか」
桃ちゃんを疑う美馬さんもだけど、変質者と言ってしまう桃ちゃんも桃ちゃんだ。
2人に曖昧に頷くと、俺の代わりに桃ちゃんが美馬さんに話してくれた。
すぐ疑ってしまうことや、倦怠期かもしれないと悩んでいたこと。それは解決したんだけど、何かにつけてリカちゃんを試してしまうことに対する自己嫌悪。改めて誰かの口からそれを聞くと、自分はなんて子供なんだと落ち込んでしまう。
真面目な美馬さんはずるい俺を穴が開くほど見つめる。
普段は桃ちゃんにしか発揮されないお説教モードを覚悟して、生唾を飲みこんだ。美馬さんが怒ると、リカちゃんとはまた違った怖さがある。
まさに『鬼』だ。
そんな鬼が俺を凝視して、口を開いた。
「リカなら試されて喜ぶんじゃないのか?ニヤニヤしながら惚気けるあいつの顔が、頭に浮かぶんだが」
飲みこんだはずの唾液が美馬さんの一言で上手く入っていかず、思い切り咽た。涙目で咳き込む俺に、驚いた桃ちゃんが背中を摩ってくれる。
「ほら。だからあたしも同じこと言ったじゃない。普通がリカに通用するわけないって、ねぇ?」
「ああ…あいつなら楽しんで乗ってくると思う」
当然のことのように肯定する美馬さんに、そう思う理由を問う。すると美馬さんは真顔のままで答えてくれた。
「リカは俺たちの想像の斜め上を飛んで行くから。あいつにとっては試されることなんて、声をかけられるのと大して変わらない」
全くもって説得力のない美馬さんの台詞だけど、妙に納得してしまうのは、美馬さんが真面目だからかもしれない。
さすが高校からの付き合いだけあり、冷静にリカちゃんを見れる美馬さんと桃ちゃんに励まされ、少しだけ気が楽になった。
俺は俺のままでいいのかもしれない。そんな自信が少し出てきて喜ぶ俺を尻目に、顔を突き合わせた2人が小声で会話を交わす。
「桃、今のウサギ君の話を聞いて、俺は更にリカの性格を疑いつつある」
「そうね……どう考えてもリカは計画犯よ。人って責められるよりも、優しくされる方が罪悪感を抱くから」
「………気づかない方が幸せなのかもしれないな」
「大多数の平和の為には、小さな犠牲も必要なのよ。ウサギちゃんはリカを見直した、リカは株を上げた。あたし達は何も知らない、聞いてない、関係ない」
「弁護士らしからぬ発言だな」
「そういう馬先生も、関わりたくないって顔に書いてあるわよ」
耳に入ってこない2人の内緒話。それよりも気になるのは、そろそろ問題児の家庭訪問をしているであろうリカちゃんだ。
朝にあれだけ嫌だと言っていたリカちゃん……どんな嫌がらせをされて帰って来るのか、少し心配でスマホを手に取る。
滅多に自分から送らないメッセージを送った俺は、その返事を待つこと数分。
『早く帰って慧君に会いたい』という返事をくれたリカちゃんに、今夜は久しぶりの恋人らしい時間を過ごせるかもしれないと頬が緩んだ。
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