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午前中いっぱいをかけて身体を回復させ、それでもまだ不十分なそれをなんとか動かす。部屋を出る前から俺の鞄を持っていたリカちゃんに送ってもらい、大学に着けば待っているのは呆れ顔の幸だった。
「男同士のあれそれは知らんけどやな……起きられへんぐらい頑張らんでもええんとちゃう?」
俺の分まで席をとってくれた幸の隣に座り、鈍く痛む腰を摩る。リカちゃんが送り迎えをしてくれるとしても、辛いものは辛い。
まだ中に入っているような、変な感じがする。
「俺は頑張ってない。あいつが勝手にして、気づいたら朝だった」
「気づいたら……って、もしかして意識失ったんか?!そんなに気持ちええんか……そうか」
「なんだよ、その目は。変なとこ見てんじゃねぇ」
俺の腰辺りを凝視した幸は、今度は自分の股の間を見る。そしてまた俺の腰を見て、真顔で口を開いた。
「ほんまに入るもんなん?これ育ったら結構な太さあるで?」
「なっ……!!」
「それにリカちゃん俺より身長あるし、見た感じ立派なモン持ってそうやん」
「おま、おまっ……もう黙れ!それ以上言ったら、殴るからな!!」
真面目な顔して、幸の考えていたことはゲスだった。人の身体を舐めまわすように眺め、嫌な想像をしやがった赤毛を睨みつける。
窓の外にその目を向けると、見える黒い頭。
「あいつ……一旦帰れって言ったのに」
どうせ迎えに来るなら、このまま待ってると言ったリカちゃんが広場にあるベンチに座っている。
この暑い中、屋外にいる理由はカフェが混んでいたか、カフェにたどり着けなかったかのどちらかだろう。
3階の締め切った窓から見下ろすリカちゃんは、ちょっと新鮮だけどかなり複雑だ。話している内容は聞こえない距離、けれど何をしているかは辛うじてわかる近さ。
例えば、誰かがリカちゃんに話しかけると相手の顔は見えるのに、話している声はわからない。
リカちゃんが手を振って何かを断っているのがわかっても、何を断っているのかはわからない。
それが悶々とする。聞こえたら聞こえたで嫌な気持ちになるのに、聞こえなかったら、それも嫌な感じがする。
要するに俺は、誰かがリカちゃんに近づくのが嫌なんだ。誰も近づくな、誰も見るなって思うのに、それはリカちゃんだから無駄に終わる。
「あの人、今日も遊びに来てるやん。いくら休みやからって、暇人なん?」
「どうせ迎えに来るならこのまま待ってるって言ってた。それでも2時間はあるのにな」
「愛やなぁ、愛。俺やったら別のとこで時間潰して、それから来るわ」
「なんか用事があるっぽいこと言ってたけど。聞いても教えてくれなかったから、俺も知らない」
何回も聞いて、その度にはぐらかされた質問。最後は不貞腐れて口もきかなくなった俺に、それでも教えてくれなかった『用事』って何だろう。
「なんだよ、俺にも言えない用事って……まさか浮気相手との密会だったりして」
「ありえへんやろ。誰が本命のおる所で浮気相手と会うねん」
「本命とか浮気とか言うな!」
「先に言うたんウサマルやん!お前ほんまに面倒くさいやつやな!!」
ぎゃあぎゃあ騒いで、幸の頬を抓って。それに怒った幸が俺の鼻を抓む。そして固まった。
赤が混じった幸の瞳は俺を通り越して窓の外を見ていて、口元を結んだと思えば抓んでいた指が離れていく。
「幸?」
「あかん、俺の大事な大事な寿命が5年は縮んでもうた」
「寿命?お前何言ってんの?」
幸がゆっくりと外を指させば、思い出すその存在。さっきまで視線を外すことが出来なかったのに、どうして瞬間でも忘れていたんだろう。
『け、い、く、ん』
聞こえないけど呼ばれているのがわかるなんて、俺とリカちゃんってば意思疎通が完璧……とか笑えない。
そして肝心のリカちゃんも笑っていない。
真顔でこちらを見上げ、真顔で足を組み、真顔で名前を呼んで。その後に言ったのは多分。
「なあウサマル、覚悟しろよって言われてる気がするんは俺だけかな?」
「奇遇だな。俺もそう見えたし、多分それで合ってる」
「この場合、覚悟するんは俺かウサマルかどっちやろか?」
バカな幸。わかりきったことを聞いてくる幸。そんな幸に親切な俺が教えてやろう。
「両方……かな。リカちゃんの本性は究極の性悪ドSで、何様俺様リカ様だから」
この後の俺と幸は、それはもう静かに講義を受けた。
時々、こちらを真っすぐに見つめる黒い瞳に怯えながら、余計な話は一切せず、入学してから1番必死に先生の話を聞いたと思う。
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