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101. 大切な朝
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「慧君」
ゆっくりと近づいてくるリカちゃんの身体。ふわりと重なる唇。離れたそれが、吐息すら伝わる距離で言葉を落とした。
「やっばぁ……夢の中だけじゃなく、こうして現実でも愛しの慧君に触れられるなんて最高だな」
「お前、勝手に人の夢なんか見てんじゃねぇよ」
「何をいまさら。俺が慧君以外の夢を見るわけがないだろ」
器用に口角だけを上げたリカちゃんが俺の唇をペロリと舐めた。かと思えば、口の端に突き出した唇を押し当て、軽く吸う。
「涎が垂れてたよ。慧君」
「なっ、お前は何してんだよ朝から!」
「何って垂れてた涎を舐めただけ。それが何か?」
「何か?じゃねぇ。そんなもん舐めなくていい……ってか、口で言えよ!口で!」
殴ってやろうと持ち上げた枕は上手く躱され、にこやかな笑みでリカちゃんがベッドから出て行く。そして数歩離れて振り返れば、完全にいつもの完璧リカちゃんができ上がっていた。
「さあ慧君、今日は絶好のお出かけ日和だね」
「天気が良すぎて、逆に俺は出かけたくないけどな」
「またまた。楽しみで早起きしたくせに」
「違ぇよ、早く寝たから起きるのも早かっただけだ」
「なるほど。早く起きて暇だから人の名前で遊んだり、人の顔を触って悪戯してたんだ?なるほど、なるほど」
ピシッと空気に亀裂が入って、心臓が跳ねた。てっきり寝てるものだと思っていたのに、まさかの展開だ。そして頭のどこかで予測していたお決まりの展開だ。
「お前……また寝たフリか?」
「正確には起きかけていたところで、慧君の告白が聞こえてきただけ」
「それを寝たフリって言うんだ」
「へぇ。それは勉強になった。ちなみに俺は慧君の目も鼻も唇も、髪も耳も、もちろん声も大好きだけどね。でも今日の1番は、寝癖で全開になってる愛しいおでこかな」
つんつん、とリカちゃんが自分の額に手を当てる。俺も恐る恐る同じようにそこを触れば、あるべきはずの前髪がない。
「やっば。慧君、せっかくだから寝癖記念に今日はそのままの髪で過ごす?」
「誰がするか!!!」
「残念。それはそれで可愛いのに」
声を出して笑ったリカちゃんが部屋の扉に手をかける。俺にとってはいつもより早い朝で、リカちゃんにとっては遅い朝。けれど2人揃っての朝は久しぶりで。
だから俺は、少しだけテンションが高かった。久々の2人での穏やかな時間に、機嫌も良かった。
理由は、それだけだ。
「あきよし」
小さな小さな、すごく小さな声で呼んでみると、リカちゃんの動きが止まる。半分ほど扉の向こうに消えかけていたリカちゃんが、顔だけこっちに戻して微笑んだ。
「なぁに、慧君」
「……別に。呼んでみただけ」
ぱち、と瞬きをしたリカちゃんが首を傾げる。
「慧」
「あ?なんだよ?」
「呼んでみただけ」
「真似すんな。腹減ってんだから早く飯作ってこいよ」
手を振って出て行けと合図すると、リカちゃんは苦笑して出て行った。俺は1人になった部屋で、リカちゃんの使っていた枕に顔を埋める。
「……やっぱり見た目だけじゃなく、リカちゃんの匂いも全部好きだ。ほんとに全部」
今日も俺の恋人は、やたらと甘い。
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