アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
106.乙女のロイヤルミルクティー
-
リカちゃんのせいで余分な体力を使ったからか、いつもより早い時間に俺の腹が鳴った。とりあえず昼飯を食べることにした俺たちは、建物から出て車に乗り込む。
俺的にはハンバーガーとかラーメンのガッツリした物が食べたかったけれど、リカちゃんが俺を連れてきたのは予想外の場所。
予想外と言うよりも、予想もしたくないし予想することもないはずの場所だった。
「嘘だろ……おい」
目の前で揺れる揺りかごのような、ハンモックのような未知のもの。そして名前なんて1文字もわからない謎の草と白くて小さな花。それから、その花びらの浮いた水が張られたボウル。
昼下がりの空の下、テラス席に案内された俺は目の前の光景に絶句した。その後ろでは案内してくれた店員に礼を言っているリカちゃんがいる。
「前にこの店をテレビで観た時、慧君と来たいなと思って。平日ならそれほど混まないって言っていたけど、テラス席は人気みたいだな」
テラスには俺たちが案内された席の他に、あと3つのテーブルがあった。でもその全ては埋まっていて、ここが最後の1席だってことはわかる。
それはわかるけれど、わからないのはリカちゃんの頭の中だ。
「お前はバカなのか?!周りを見てみろよ!」
俺に怒鳴られたリカちゃんが、ぐるりと周りを見る。でも怒られた理由がわからないのか、首を傾げた。
「周り?ああ、ここの座り方ならカゴの中に2人で並んで……」
「違ぇよ!そこじゃなくて、俺は周りの状況を見ろ言ってるんだよ!!」
「状況って言われてもなぁ。みんな仲睦まじく愛を囁きあってるだけに見えるけど」
「囁きあってるだけじゃなくて、それが問題なんだろ!」
隣合うテーブル同士は薄いカーテンで仕切られ、それなりに目隠しはしてある。けれどその布は限りなく薄くて、もはや無いに等しい。逆に、こうして微妙に隠してある方が妖しさを増しているぐらいだ。
俺たちの左の席では、彼氏と思われる男と、彼女と思われる女が楽しそうに微笑みあっている。それが彼氏彼女だと思うのは、その距離が近いからだ。
だって、友達同士なら手なんか握らないだろ?手を握って顔を寄せあって、好き好き言わないだろ?
友達同士なら、口についたソースを指で拭って、それを舐めたりしないだろ?
つまりここは恋人同士に向けての席で、ほぼ丸見えの席で、声も聞こえちゃう席なわけで。と、するなら俺とリカちゃんがここに座るのは変だ。
なのにリカちゃんは全く違和感を抱かないらしく、テーブルの上に車のキーを置いた。
「慧君、慧君は右と左どっちに座りたい?慧君は右利きだから俺が左側に座るべきかな……いや、せっかくなら俺が右に座って、慧君に食べさせてあげるのもアリか。やっばぁ……こういう時にも両利きって便利だな」
「どう考えてもナシだろ。お前に食べさせてもらうのも、お前に食べさせるのも、ここに座るのも全部ナシだ」
「え?慧君が腹減ったって泣いたから急いで来たのに?」
「泣いてねぇし。勝手にクソみたいな話作ってんじゃねぇよ」
座れ、座らないと言い合う俺たちの後ろで、メニューを持ってきた店員がおろおろしていた。それに先に目を向けたリカちゃんが、にこやかな顔で手を振る。
「もう注文は決まっているので、メニューは大丈夫です。恋人たちのパスタランチを純愛クリームソースで1つ。デザートはガラスの靴のパルフェと白雪姫のアップルタルト。セットドリンクはアイスコーヒーと乙女のロイヤルミルクティーで」
メニューを見ずに一度も噛むことなく、リカちゃんが告げる。
あの獅子原先生が。あの怒ると怖くて怒らなくても怖くて、その存在自体が怖い獅子原先生が、こんな名前のメニューをスラスラと。
「リカちゃん……お前、さっきのメニューだけど。俺に隠れて噛まずに言う練習しただろ?」
周りに聞こえないぐらいの小声で訊ねた俺に、リカちゃんは「秘密」と答えた。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
1200 / 1234