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指輪の無いプロポーズ 6
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アルがミカと病院へ行き、警察へ行き、弁護士に会い、様々な手続きをしてから約1年後、仮発行されていた身分証明書が正規のものとなり、市民籍も取得でき、ようやくアルにも誕生日ができた。
アルの記憶喪失は本人の申告通り本物で、そして、ミカの予想通り行方不明者リストにアルは載っていなかった。
結局、アルの家族は見つからなかった。
それは本来、悲しむべき事態なのだろうが、アルはむしろ、ほっとしていた。
ミカも同様に安堵し、アルには言わなかったが喜んでいた。
我ながら残酷だな、とは思いつつもミカは、嬉しいものは仕方ない、と開き直る自分に呆れていた。
今日はそのお祝いと、そして新しい誕生日を祝うために、ミカは休日だというのに朝早くから準備をしていた。
ケーキを焼いている間に、昨夜仕込んだコンソメゼリーの固まり具合を確認し、次々と食材をさばいていく。
鼻歌まじりで包丁を握るミカは、どこからどう見ても上機嫌だ。
しかし、それは単なる幸運で手に入れた故ではない。
つらい思いをしながら、不安に心を潰されそうになりながら、やっと得られた‘日常’だ。
ミカはこぼれる笑みを止められなかった。
「何ニヤついてんの」
突然、後ろからかけられた声に驚いて振り向くと、アルがパジャマのままキッチンの入り口に立っていた。
「おはよ、アル」
「おはよ」
「まだ寝てていいよ」
「いや、なんか凄くいい匂いしてきたから起きちゃった」
ミカの隣に立ってアルは手を洗うと、「何か手伝う?」と聞いた。
「じゃ、サラダお願い」
「了解」
そして、トマトを切りながらミカに再度訊ねた。
「で、何ニヤついてたの?」
「だって、ふふ、こういうの幸せだなって思って」
あまりの無邪気な告白に、アルの顔は手元のトマトのようになっていた。
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