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僕のアル
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その日、僕は駅の近くのショッピングモールに来ていた。
週末ということもあって、そこは結構にぎわっていた。
僕はモールの入り口でひとりの少年を見かけた。
挙動不審だったわけではない。
目立つ服装をしていたわけでもない。
でも、なぜか人の群れの中で彼に目を引かれた。
一瞬、目が合ったようだが、すぐに人込みに紛れて消えてしまった。
誰か知り合いに似ていただろうか?
いや、違うだろう。
あの少年に目が行ったのはたまたまだ。
僕はさして気にも留めず、モールの中に入っていった。
本屋で気になったものをいくつか買い、適当に食材を買い込むと、僕は車へ戻ろうとパーキングへ向かった。
土曜の午後という時間帯だったため、運悪く近い場所は空いていなかった。
少し歩かなければならないが、それもたまには良いだろう。
僕は秋風を楽しむ散歩だと思って足を進めた。
モールから1ブロック離れると飲み屋街になる。
そこから2ブロック行くと如何わしい店が集まる地区になる。
今日、車を止めたパーキングはその手前だ。
ここまで来るとさすがに人も減ってくる。
ましてやモールにいたような家族連れや子供はいない。
そんな所で僕は、また、あの少年を見かけた。
誰かと話しているようだが声は聞こえない。
見ていると彼は話している相手に呆れたような顔をされ、蔑むような目で何かを言われていた。
そして、その人物が立ち去ると、彼はその後姿を見送ってぽつんと立っていた。
少年のすぐ横を通り抜けるとき、また彼と目が合った。
夕暮れ時だったが、彼の顔は見て取れた。
男だということは分かるのに中性的な顔立ち。
まとう雰囲気は儚げで頼りない。
二度も目が合ってしまったが、僕は偶然だと思っていた。
少年も横の路地に入ってしまい、僕は気にもせずパーキングへ向かった。
荷物を積み込み、今来た道を戻るように車を走らせる。
僕はそこでまた、あの少年を見かけた。
にやけた表情の男2人と話していたが、少年が何か言うと、そのにやけた笑いが突然怒ったように変わり、1人の男が少年の肩を押した。
少年は尻餅をつき、2人の男は下品な笑いを彼に向けて何か言うと歩き去っていった。
なぜブレーキを踏んだかは分からない。
でも僕は、今日一日で3回も見かけた見ず知らずの少年に駆け寄っていた。
「大丈夫かい?」
後ろから声をかけると彼は振り向いて、驚いた顔で「ありがと、大丈夫」と答えた。
「ほら」
手を貸して立ち上がらせると、僕より背が低いことが分かる。
服を両手でポンポンと叩く彼に怪我してないか尋ねると、彼はにっこり笑って頷いた。
怖い思いをしただろうに平気なのかと心配になった。
しかし、少年は「大丈夫です」と笑った。
そして、唐突にこう聞いてきた。
「今夜、あなたの家に泊めてくれませんか?」
一瞬、何を聞かれているのか分からなかった
そして、家出か何かかと思って答えを渋った。
そんな僕の表情に気付いたのだろう、彼は
「あ-、いいです。今の無し。えーと、じゃ」
と、手を振って僕から離れていこうとした。
「ちょっと待って。どうするの?」
「ん~、他当たります」
「他当たるって…」
「誰か泊めてくれる人を探しますから、ご心配なく」
いやいや、心配するだろう、当然。
こんな危ない地区のそばでそんなことしたらどうなるか。
僕は思わず彼の手を取っていた。
咄嗟のことで我ながら驚いた。
「あ、ごめん」
「いえ」
僕が手を離すと彼は不思議そうに僕を見つめ、そして、また立ち去ろうとした。
「君、あのさ」
「はい?」
「泊まるとこ…探してるの?」
「はい」
「えと…僕のアパルトマン、来るかい?」
自分でも何でこんなこと言ったのか理解できなかった。
自分で自分の口を衝いて出た言葉に驚いた。
しかし、もっと驚いたのは少年の方で、
「いいんですか!?」
と満面の笑みで確認されてしまった。
僕は、あの時何を考えていたのだろう。
今でも分からない。
でも、彼を自宅へ招いたことを後悔はしていない。
いや、むしろあの時の自分に感謝したい。
だって、お陰で僕は大切な人を得ることができたのだから。
彼を泊めた翌朝、僕は少年の名を知った。
彼はアルと名乗った。
アルベールでもアルフォンスでもアルフレッドでもなく、ただのアルだ、と。
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