アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
⑤
-
二人でびしょ濡れのままタクシーに乗った。
泣き終えたばかりで、時々しゃくり上げてしまうのが恥ずかしい。
どうやら、一ノ瀬くんの家の方が俺の家より近いらしく、今は一ノ瀬くんの家に向かっている。
「あ、ここで」
タクシーが止まると、俺と一ノ瀬くんは外に出た。
雨は上がっている。
▽ ▽ ▽
「えーと、とりえずこれで頭拭いてください」
洗面所の棚から白いタオルを出し、一ノ瀬くんはそれを俺に渡す。
それよりも服が身体に張り付いたりして気持ち悪かったが、今は大人しく一ノ瀬くんに従った。
「…使い終わったら、適当にそのかごに入れておいてください」
一ノ瀬くんが洗濯かごを指差して言う。俺は頭を拭きながら頷いた。
そしてあらかた髪の毛の水分を取った俺は、寝室に向かう。
「…あの、一ノ瀬くん」
「はい」
一ノ瀬くんは濡れた服を着替えながら、後ろを振り向いた。
「俺、着替えとか何にも無いんですけど、どうしたら…」
俺が気持ち悪い思いをする分にはまだいいが、こんな服で家にいたら部屋を濡らしてしまう。それだけは避けたかった。
「ああ、そうでしたね」
一ノ瀬くんはタンスを開け、服を漁り始めた。
俺に合うサイズを探していたのか、しばらくして一ノ瀬くんがジャージを手に取る。
「…これ着てください」
「はい」
渡されたのは黒色のジャージだった。
「ここで着ていいですよ」
一ノ瀬くんはボフッとベッドに腰掛けた。
一ノ瀬くんの居る前で着替えるのも恥ずかしかったが、女子か!と自分に言い聞かせて、服を脱ぎ始めた。
着ていた服は絞れるんじゃないかな、ってくらい濡れている。下着は……ギリギリセーフ。
「……佐伯さん」
すると、ジャージに袖を通している時に、名前を呼ばれる。そして、一ノ瀬くんはベッドから降り、俺の方へと歩み寄って来た。
「なんですか?」
「俺の家に泊まっていきませんか」
「………」
真剣な顔、というか、いつもの無の表情で言われるから、なんか断り難い。
別に疚しい気持ちで言ってるんじゃないよね。もう外は暗いから泊まっていけって意味のはずだ。
それなら、泊まっていってもいいかな。
「…はい」
どうせ一泊だけだ。特に変なことをする訳では無い。
だけど、
"好きな人に、触れたいと思うのが普通でしょう?"
なんて今に限って、過去の一ノ瀬くんの言葉を思い出す。
あの時一ノ瀬くんが言ったのは、ただ単に俺を怖がらせる為だったのかも知れないけど、この言葉は嘘のように思えなかった。
もし本当に一ノ瀬くんがそう思っているのだとしたら、何か意図があって俺を泊めさせようとしているのだろうか。
そう考えてしまうのは馬鹿馬鹿しいかな。
だって、そうなのだとしたら、一ノ瀬くんが何をしてくるのか分からない。
本当に、泊まってもいいのか?
「…どうしたんですか」
一ノ瀬くんの声に思考を断ち切る。
「大丈夫です」
マイナスなことばかり考えちゃ駄目だ。
一ノ瀬くんは悪い人じゃない。俺の、大切な人だから。
(…信じよう)
俺はもう、余計なことは何も考えないようにして、着替えを再開した。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
58 / 331