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⑥
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「…ノ瀬くん……一ノ瀬くん……一ノ瀬、くん……っ」
ただひたすらに、一ノ瀬くんの名前を呼ぶ。
寝室の壁に凭れ掛かり、それだけを繰り返していた。
俺もう、どうしたらいいのか分からない……
床の一点を見詰めて、空虚を眺めているだけ。
俺は一ノ瀬くんのことが好きだと分かった。
それが分かれば、一ノ瀬くんに気持ちを伝えて、この苦しさからは開放されると思ってた。
それなのに今は、一ノ瀬くんが好きかそうじゃないかで悩んでいた時よりも、ずっとずっと胸が痛い。
恋愛なんて気の楽なものだと思っていたのに、どうしてこんなに追い詰められなくちゃいけないんだろう。
「一ノ、瀬く……」
疲れた。
たくさん、たくさん考えて、泣く程に悩んで、それで得た結果がこれだ。
こんな仕打ちってあるかよ。
結局俺は、一ノ瀬くんのことが好きだろうが嫌いだろうが、別れなければならなかったんだ。
誰も幸せにならないような恋を実らせたって、仕方が無い。
俺から身を引くのが、いちばんいい方法だろう。
何があっても俺のことが好きだと、一ノ瀬くんは言ってくれたけれど、酷いことをしたと自覚があって、それを許されるのは、俺が嫌だった。
俺には無理をするなと言う割に、一ノ瀬くんは俺のことで無理をし過ぎるんだ。
だから、傷付けてしまう。
たとえ俺といることが一ノ瀬くんの幸せだったとしても、俺はそれ以上に一ノ瀬くんの傷を増やす。
俺は、一ノ瀬くんのことが好きなのに。
(…そっか……)
一ノ瀬くんは、ずっとこんな思いをしていたんだね。
好きなのに気持ちを伝えられなくて。
でも、誰にもそのことは打ち明けることが出来なくて。
あの日、俺に全てを話してくれた時まで、1人で抱え込んでいたんだ。
全部言ってしまえば、今の関係が壊れてしまうかもしれない。だけど、何もかもを話してしまえば楽になれる。
そんな毒を孕んだ爆弾と、好きだという気持ちを、両手に抱えて。
それなら、今の俺と同じだ。
思いを伝えてはいけない。
だけども、それを打ち明ければ、一ノ瀬くんは全てを受け入れてくれて、俺は苦しみから逃れられる。
そんな爆弾を作るのは、他の誰でもない、一ノ瀬くん。
一ノ瀬くんが優し過ぎるから悪いんだ。
何でも許してくれて、受け入れてくれて、こんな俺を愛してくれて。
優しいが故に、俺は言えないんだ。
全部ひっくるめて俺を好きでいようとしてくれるから、俺の与えた辛さも全て、一ノ瀬くんに背負わせてしまう。
それだから俺は、爆弾を抱える。
「嫌だっ……」
もう、何もかも全部投げ出して、今すぐ逃げ出したいよ。
こんな思い、したくない。
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