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③
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もう既に酔は体内を回り、俺は空き缶1本を手で握りながら動きを止める。
頭はボーっとしてきて、次第に眠気も襲ってくる。
あと缶は2本も残っているが、これ以上は飲むことができなかった。
(眠い……)
何度も頭をカクカクと動かし、その度にハッとして目を擦るという動作を、俺は幾度となく繰り返す。
対する一ノ瀬くんは4本目の缶ビールに入っていて、それなのに酔っている様子は全く無かった。
「佐伯さーん」
一ノ瀬くんに目の前で手を振られるが、俺からすれば視界などぼやけて、意識をはっきりさせる程の効果は無い。
「寝ます……」
そして遂には、眠気に耐えられなくなって、俺はテーブルに突っ伏した。これだからお酒は駄目なんだ。
すると一ノ瀬くんに、くしゃりと頭を撫でられる。
(なんだよ……)
それは少しうざったいけど、俺にその手を払い除けるまでの力は残されていなかった。
だけど、一ノ瀬くんはなかなか俺を寝かせてはくれない。
「佐伯さん、寝ちゃ駄目ですよ」
身体を揺すられても、俺にはもぞもぞと動く気力しか無かった。眠過ぎて、目が開こうとしない。
絶対に顔だって赤くなってるだろうし、そんなので顔を上げたくはなかった。
一ノ瀬くんは、そんな俺の頬をペチペチと軽く叩く。別に痛くはなかったが、多少煩わしかった。
「佐伯さん、会社で言ったこと覚えてますか」
(……何それ……)
アルコールで麻痺しそうな頭では、俺が会社で言ったことなど思いだせやしない。
「んぅ……?」
俺は仕方無くと言った感じて、僅かに顔を持ち上げた。そして一ノ瀬くんはと言うと、テーブルに頬を付けて俺と目線を合わせてくる。
「………」
何なんだ、2人してこの態勢は。
そう思って俺がゆっくりと頭を上げると、一ノ瀬くんもそれに合わせて上体を起こした。
「なんですか……」
「本当に覚えてませんか」
そう聞かれるが、もう意識は朦朧とし始めていた為、俺は考える前に曖昧に首を傾げる。
すると一ノ瀬くんは、すっとその場を立ち上がり俺の隣まで歩いて来ると、こちらを向いて横に座った。
「家までお預けです」
一ノ瀬くんは微笑を浮かべながら、荒れて赤くなった俺の唇に人差し指を当てる。
「佐伯さん、そう言いましたよね」
「は……?」
そんなこと、言ったような言わないような。
記憶がぼんやりとしていて確信は持てなかったが、一ノ瀬くんがそう言うのなら、そういうことなのだろう。
俺は早く寝たくて、適当に頷いた。
「じゃあ、ここは家ですから、お預けも何も無いですよね」
「んー……」
そう言われても、俺はよく理解出来ていないから、いいとも言えないし、駄目とも言えない。
(何がしたいの……)
そんなことを思ってから、俺は静かに目を閉じて、カクンと頭を凭れる。眠さには抗えなかった。
「…佐伯さん、まだ寝ないでくださいよ」
ポンポン、と何度か肩を叩かれるが、それだけじゃあ到底、眠気が覚めるまでには至らない。
俺はもう起きていることに疲れて、諦めた。
「……佐伯さん?」
何かに寄り掛かりたくて、俺は横に、一ノ瀬くんへと倒れた。そして、一ノ瀬くんの肩に頭を乗せる。
やっぱり、一ノ瀬くんに触れてると心が安心して。すごく、落ち着いた。
今すぐにでも意識を落としそうになる。
それくらい、一ノ瀬くんの側は心地が良かった。
今までの俺なら、男性に対する思いとしては有り得ない感情だ。
「仕方無いですね……」
近くで、一ノ瀬くんが小さく笑うような声が聞こえた。
少しの間、一ノ瀬くんは何も触れてこなかったが、その後で優しく頭を撫でられた。
「おやすみなさい、佐伯さん」
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