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トイレに入って来て俺の隣にしゃがんだ一ノ瀬くんは、俺に触ろうとはしてこない。
ただ、首を傾けて顔を覗き込むようにされる。
俺の表情や息遣いから大体は察したのか、大丈夫ですか、とは聞かれなかった。
「……料理してる時から、そんな状態でしたよね」
まずはそう問い掛けられ、俺は力無く頷く。
料理中は上手く誤魔化していたはずなのだが、どうやら一ノ瀬くんには通用しなかったようで。
「よく頑張りましたね」
なんて言って、微笑みかけられる。
きっと、俺が今こんな状態じゃなかったら、頭まで撫でられていたと思う。
「じゃあ、とりあえず家から出ましょう。どっちにしても皆さんのところには戻れないと思うので」
「え、でも……」
「大丈夫です。さっき俺と佐伯さんが少し抜けると伝えてきたので。よそってしまったカレーは、生駒さんが食べてくれますよ」
果たして、そのカレーの話はいるのだろうか。
できるだけ俺の緊張感を緩めようとしてくれているのかと、そう思ってしまう。
しかし、今更リビングに戻れないのも事実だし、それならこのまま家にいても仕方が無かった。
俺に、一ノ瀬くんの言うことを否定する権利は無い。
「…分かり、ました……」
かと言って、一ノ瀬くんがどこへ行こうとしているのかは分からない。
それでも俺は、一ノ瀬くんに従うしかないから。
「佐伯さん、立ったり歩いたりすることできます?」
そう聞かれては、俺は首を横に振る。
今は立ち上がることはおろか、少し動くだけでも、その刺激全てが俺には苦痛だった。
「…立てないし、歩けない…です……」
俺の返した言葉に、しばし一ノ瀬くんは俺を見詰めて考える。
「そうですね……」
その間にも俺は、少し眉を寄せて顔を赤くする。
ただただ終わりも見えない程に疼くばかりの身体。苦しさに涙も流れそうになる。
早くどうにかしないと、とは思うが、やっぱり俺にはどうすることもできない。
すると一ノ瀬くんは、唐突に手をこちらに伸ばしてきて。
「…ん……っ」
目元に溜まった涙を人差し指で掬われた。
俺は思わず過剰に反応してしまい、強く目を閉じる。
「……佐伯さんは」
そうしてから、また真っ直ぐに目を見られて、俺はそっと目を開いた。
「…街中を歩くなら、俺に抱えられるのと背負われるのでは、どちらがいいですか」
「………」
突然変な質問をされるから、俺はすぐには答えられない。
いや、俺が歩けないと言ってしまったから、そんなことを聞かれるのも当たり前なのかもしれないけど。
抱えられるとなると、多分俗に言うお姫様抱っこをされるだろうし、そうなると背負われた方がマシだ。
「……抱えられるのは、やだ……」
俺だけ逃げるみたいだけど、背追われるのならまだ顔を隠せる。街中で、しかも男なのに運ばれるなんて、本当は背負われるのも恥ずかしいけど。
「分かりました」
一ノ瀬くんはそれだけ言うと、俺に背を向けてしゃがみ直した。
「はい、いいですよ」
「……はい…」
行動が早くて、俺は躊躇ってしまう。
しかし、待たせてしまうのも申し訳無くて、臆しながらもそっと一ノ瀬くんの肩に手を置いた。
「重い、ですよ……?」
そう言ってみるけど、一ノ瀬くんは構わず俺を持ち上げて。触れられたことでビクリとしてしまった。
「…佐伯さんは俺より身長低いですし、俺はか弱い女性じゃないので大丈夫です」
「……ぅぅ……ごめんなさい……」
背負われてしまっては、俺にはもう唸ることしかできなかった。力の入らない腕で、精一杯に一ノ瀬くんへと抱き付く。
一ノ瀬くんとの距離が近くて、余計に身体が熱くなったような気がした。
「…とりあえず、俺の家まで行きましょうか」
一ノ瀬くんはトイレから出ると、早速歩き出した。
これで街の中を歩かれるのは、考えただけでも恥ずかしい。
「………」
俺は、赤くなった顔を伏せた。
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