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「…あの人からある程度は聞いたよ」
「っ、気持ち悪いと思ったでしょ!男同士がだなんてっ」
その黒い瞳に囚われたら視線を逸らすことが出来なくなりそうだと思い、彼の首元に視線を向けた。
どうやら佐合さんは紫波さんに何かを話したらしい。一体何を話したのか…気になるけど怖くて聞けない。
もし、それを聞いて「気持ち悪い」と言われたら俺は生きていけない。
冗談抜きで拒否をされたら俺の全てを否定されたと思ってしまう。
俺は怖くてギュッと目を瞑った。
どうか、俺を否定しないで…俺の存在意義を否定しないで。
そう願っていたら、掴まれていた腕を引かれたことによりバランスを崩した。
そして、頭の中が真っ白になった。
「……えっ?し、ばさん…?」
「気持ち悪い?何でそう思うんだよっ。何で自分のことを否定すんだよっ」
信じられなかった。身体全体で感じる温もりに…叶わないと諦めていた彼の体温に…。
痛いぐらい力強い抱擁に俺は呆然とした。
何故紫波さんは俺なんかを抱き締めているんだ…?
そう思った瞬間、弾かれたように彼のこの腕の中から抜け出そうともがくが、がっちりと抱き締められているから不可能だった。
「止めてください!話を聞いたなら分かりましたよね!?俺が夜な夜な男を誑かしていることを!」
抜け出せないなら、一層嫌われてしまえばいい。そうすれば俺なんかを離してくれるだろう。
そう判断した言葉に紫波さんは、「違うだろ!」と怒鳴った。
「聞いたよ、君があの人や他の人とそう言うことをしていることを…」
「じゃあ…!」
「でも、理由があったんだろ?君は理由なしでそんなことを出来る筈がない」
言い切った言い方に「俺の何を知っているんだ」って言いたくなったけど、余りにも的確な指摘に口籠るしかなかった。
理由なんて…他人にとったらしょうもない理由だ。
早く誰もいない場所で1人になりたいと焦っていて、けれど、自分には誰もいないことに寂しく思った。
だから俺は佐合さんを誘った。俺のためにと拒否をしていた彼を半強制的に誘ったんだ。
ほら?そう考えれば俺は卑しい男娼だ。
「…何考えてんの?」
「別に…紫波さんには関係ないことですよね?」
心にもないことを好きな人に言うのは辛いんだな…ズキズキと痛む心に気付かないフリをして続ける。
「俺が何しようと貴方には関係ない。理由も特にない。だから放っておいてください」
「…そう言ってるけど、言葉と表情は合ってないよ」
彼の胸をトンと押して顔を見ながら言う。
心を無にして…好きな人を傷付ける罪を背負って感情を出さずに言った筈なのに、紫波さんは合っていないと話す。
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