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夕暮恋愛side旭秀治
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「綺麗だなって思って」
「ああ夕日?すごい綺麗だよね。怖いぐらい」
実際今日の夕日は綺麗だった。空が燃えているみたいにオレンジ色に染まっていた。山火事ならぬ雲を原料として青を赤色に塗りつぶしたような印象を受ける。
こんなにきれいな夕焼けは、本当に久しぶりだ。
吉岡君がきれいと思うのも不思議じゃない。僕だって思う。
同じ対象のものを同時に印象を受けるというのは、結構嬉しいものだった。
夕焼けを見て吉岡君と僕は同じことを考えた。綺麗だなんてありきたりな感想だけれど、心の中がぽわぽわする。些細な事に喜びを感じる。
「違う」
「え?」
しみじみと窓から流れてくる風を浴びていると、吉岡君がぼそりと呟いた。振り返ってみると、椅子に座ったまま吉岡君はまだこちらをじっと見つめていた。視線は落ちていく赤々とした太陽じゃなくて。僕と吉岡君の視線がまじりあった。
「旭のこと。本読んでる旭が、すごい綺麗だった」
顔に浮かぶのは、透明なまでに澄みきった微笑で。心臓を鷲掴みにされたような衝撃を味わった。こんなに真剣に綺麗だなんて言われたのは、初めてだし、それが吉岡君だから、平常心なんて保てるはずがない。
みるみる頬に血液が昇っていく。暑くてどうにかなりそうだ。本で顔を隠して逃げようとしたけれど、ばっちり目撃されたみたいで、吉岡君も我に戻ったみたいに慌てて顔をそらした。
「いっ今言ったことは忘れてくれ!」
蒸発気味の脳味噌がとろけていく。返事すら返せず、悶えたくなる体を抑え込んだ。気まずい静寂が流れ始めたけれど、自分のことで精いっぱいだった。
なんだろう、この気持ちは。変に意識してしまう。
吉岡君をみると胸が痛くなって切なくて。でもどこか暖かくなって。ぽわーってした気持ちのいい気分になる。気がつけば彼の微笑が頭に浮かんで、、気づけば彼の方を見つめていて。吉岡君も僕の瞳を覗き込んでくる。すぐに恥ずかしくなって見つめあいは終わったけれど。理由は不明だが涙が滲みそうになりながらも、吉岡君のことばっかりが脳内を占める。
僕の感情の変化が露わになった瞬間だった。
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