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単調なメトロノームが基本の音楽の世界。けれども、榎野が見つけたギターの旋律は、彼の心を強く揺さぶってきた。
”おいでよ”と告げたあの音に、大学生活に色を与えてくれたギターの唸りに、榎野はどれほど感謝しているだろう。
だから、榎野は決めたのだ。
「何年経っても、俺が息を引き取る数瞬間前まで、ずっと待ち続けてやります。流れに逆らうフウセンウオの姿を体現する、あなたのギターの音を。」
榎野は先輩の手を引いて、ベッドに腰掛けさせる。すると、元王子は愛しい人の手を取り、恭しく口付ける。
「あなたの心を、音を、命を…愛するために傍にいる権利を下さい。」
好きです、と思いの丈を叫んだ後輩に、楠田は困り顔でお前なぁ…と呟く。
「お、俺達、男同士だぞ??」
大切に扱われるのが慣れていないのか。楠田は目に見えて、そわそわしている。
「だからこそ、絶対に幸せにします。」
榎野はさらりと、だがはきはきと喋る。
「おっ、お前は俺より似合いの女がいるだろうし…。」
「どんな美女だろうと読心術の使い手だろうと、俺は楠田さんを愛します。」
「け、けどさ…。」
俯き加減の楠田に、後輩は眉を寄せる。
「…楠田さん。前々から何となく思ってはいたんですが、けっこう自分に自信がないですよね。」
「え??」
キョトンとした楠田は、明らかに狼狽しだす。
「は!?ん゛ん゛!?なっ、何言ってんだよ、榎野!!おっ、俺は自尊心の塊だぞ~??」
「目が泳いでいますけど。」
「うぐ…。」
榎野は繰り返し顔を縦に振り、納得する。
「…なるほど。楠田さんが俺に対して『男なら誰でもいい』とか抜かしていたのは、こっちに問題があるんじゃなくて、楠田さん自身の責任感軽減のためか。」
楠田は数秒口を閉ざしていたが、突如両拳を無茶苦茶に動かして暴れだす。
「しっ、仕方ないだろ~っ!!お前は自分の顔を鏡で見たことあんのかよ!!御伽噺に出てきそうな王子様面しやがって!!王子を前にしたら、誰だって自信なくすっつの!!」
まして俺は全然妃って柄じゃねぇしっ、と言い放ち、楠田はしゅんとする。
「なるほど。」
首肯を繰り返した榎野は、顔を上げてあっけらかんとする。
「だから??」
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