アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
長男を元気にし隊
-
「ふぅ……」
今日の里冉は、珍しく元気がなかった。
「兄貴、今日ずっとあんな調子だったよな」
「疲れてるだけじゃない?」
「いつも疲れなんて微塵も感じさせないのに…」
「なにかあったのかなぁ」
「さぁな…」
弟4人が、キッチンの方を覗きながらヒソヒソ声で話している。
当の里冉は浮かない顔で夕飯の食器を洗っているので、そんな4人には気づいていないようだ。
「どーにかして元気づけてやれねぇかな」
「そうだなぁ」
「えー…なんで兄貴1人のためにそんな」
「んなこと言わずにさ、ほら、なんか案ねぇか?」
「うーん…」
「元気づける…」
「どうせあれでしょ、楽が可愛くハグでもしたらいつもの兄貴になるでしょ」
樹のその発言に、楽の表情が変わる。
「それだ!」
「へ?」
「ハグ!皆で兄貴にハグしようぜ!」
「俺は嫌だ」
「樹ぃぃそんな事言わずにぃぃ」
「だって楽1人で元気になりそうだし」
「今回ばかりは多分俺1人の力じゃ足りないんだよぉぉみんな俺に力を貸してくれぇぇ」
「ヒーローショーみたいになってきたね」
「唐辛子レッドでしょ」
「弱そうだな」
「弱そうって言うなぁ!」
「必殺!レッドペッパー!」
「ただの唐辛子だね」
「やっぱり弱そう」
「弱そうって言うなぁ!!」
もう!そんなことは今どうでもいーの!と楽が話を戻す。
「ハグ大会!しようぜ!」
「俺はまあ…いいよ」
「俺もー!」
「えぇ…なんで乗り気なわけ意味わかんない…」
「ほら樹も」
「ええぇ……」
「お願い…!」
「……仕方ないなぁ。今回だけだからね」
「やったぁ!決まり!」
その後色々会議した結果、英樹、白、樹、楽の順で1人ずつハグをすることになった。
里冉が洗い物を終えてリビングのソファに腰掛けテレビを見始めたのを見た英樹が、早速動いた。
「わっ!」
「わぁ!…どうしたの英樹?」
「へへ、冉兄〜」
「なぁに〜」
ソファの後ろから抱きつく英樹。驚く里冉。見守る3人。
思いっきり甘えるような仕草で「冉兄〜〜!」とハグし続けている英樹を見て「マジであれ俺もやるの……?」とドン引きしている樹に、楽がうんうんと首を縦に振る。
「大型犬が飼い主に甘えてるようにしか見えねぇな」
「それな」
「大型犬にしてもだいぶデカイけどね」
「それな」
「…俺も行ってくる」
白も続く気だ。
「なーにやってんのお二人さんっ?」
「白…」
「何なに?俺も混ぜてよ」
「え?えぇ?」
「冉兄〜」
「えぇ……??」
普段全く自分からは甘えない白が甘えているという異様な光景。双子は顔を見合わせて、ふふ、とちょっと笑った。
慣れてないせいで白の表情が少し硬いのだ。
「ど、どうしたの2人とも……?何かあった……?」
「んーん、何も」
「何もないよ〜」
「えぇ…?」
兄貴困惑してるなぁ〜と楽がクスクス笑う。
樹も同じように続こうとしているみたいだが、なかなか踏ん切りがつかないらしく、オロオロしている。
数分そのまま出ていかないので、痺れを切らした楽が背中を押す。
「行ってこーい!」
「うぇ!?ちょっ…押さな…」
ひひひ、と笑いながら送り出す楽。
「……わかったよ。行けばいいんでしょ」
「おう!」
「あ、兄貴……」
「樹…?」
「……っ」
樹は白が座っている方と逆の隣にストンと腰掛け、しばらく固まる。
「……?」
未だ白に抱きつかれたままの里冉が頭にはてなを浮かべる。
そして、意を決した樹が、ばっ!と里冉に向けて両手を広げた。
なるほどそう来たかぁ!と楽は必死で声を殺しながら笑う。
「…え」
困惑している里冉。
いやそりゃそうなるよなぁ。だっていつもめちゃくちゃ辛辣な樹がハグを求めているんだもんなぁ。
その最高に異様な光景を見れば見るほど、笑いが止まらなくなる楽。
「ん!」
「え、あ…こういうことで…あってる……?」
「ん!」
そーっと抱きつく里冉の背中に樹は手を回し、ハグをする。
やべー!動画録っときゃよかったー!と楽が1人で大盛り上がりしている中、リビングの空気が不思議なものになっていた。
全員「……なんだこれ?」という顔をしている。非常に面白い。
「よぉし大トリいっきまーす!」
しばらくして笑いがおさまったので小声でそう呟き、リビングに突入する楽。
「あーにーきっ♡」
「わっ、らっくんまで…!」
「えへへ〜」
精一杯可愛く真正面から抱きついた。
他の3人からの視線が「慣れてるなぁ……」なことには気付かないふりでとりあえず甘える。
「あーにきっ」
「なぁにらっくん」
「あのさあのさ」
「うん」
「大丈夫か?」
「…へ?何が?」
予想してなかったらしい問いに、里冉は一瞬ポカンとした。
「無理とかしてない?何かあるなら言えよ」
「どうしたの急に…?」
「その…兄貴今日元気なかったから…俺心配になって…」
「……!これはもしやそういうこと…?」
「…そう」
「ふ、ふふ、そっかぁよかった」
「よかった?」
「いや、みんな壊れたのかと思って…ふふ、特に白と樹ね」
「失礼な」
「いやでもその通りだよな、自分からやったんだとしたら明日は雪、いや槍…むしろ槍どころじゃないものが降りそうだもんな」
「確かに!」
「な、兄貴」
「はぁい」
「元気、出た?」
「んふふっ、こんな弟ハーレム作られちゃ元気にならざるを得ないよ〜」
「ハーレムって…」
「こらそこ嫌な顔しない」
「元気出たならよかった、な」
「うん!」
いつもの笑顔に戻った里冉を見て、囲んでいる4人も笑顔になる。
やはり雨立家はこうでないと。
「……で、なんで元気なかったんだよ」
「え…?あー…それは…その……」
「俺も気になる」
「俺も!」
「俺は別にどうでもいい」
「樹お前…」
「あはは…実はね…」
「太ったぁ!?そんな理由!?」
「ていうか全然そうは見えないんだけど!?」
「それで落ち込んでたとか…女子か!!」
「最近ずっと家にこもってばっかだったから心配になって測ったら…増えてて…うぅ……」
「女子じゃん…」
「誰と話してんのかわかんなくなってきた…」
「兄貴じゃなく姉さんって呼んだ方がいい?」
「姉さん姉さん!」
「兄貴でお願いします…」
まさかの理由に驚く4人だったが、同時に少し安心もしていた。もっと深刻な理由だとばかり思っていたから。
ただ里冉にとってはかなり大問題なようで、はぁ…と項垂れている。
「家事してるだけじゃ維持出来なくなってきてるのを実感して…俺も年だなって…」
「年感じるの早いな」
「大丈夫だって全然わかんねぇから」
「やめてらっくんそんな触らないで」
「いや〜わっかんねぇけどなぁ〜?」
「ていうか体質的に太らないんじゃなかったの」
「そうなはずなんだけど…あぁぁまたジム通おうかな…」
「すげえ遠い目してる……」
「あの視線の先にジムが……?」
「冉兄、俺も一緒に行きたい!」
「英樹、お前はもういいと思う」
「それ以上ゴリラになってどーすんだよ」
「ゴリラじゃないよ!!」
「そもそも部活で忙しいんだし行ってる暇ねぇだろ」
「そういやそうだ」
「でも一人で行くの確かに寂しいなぁ…らっくん一緒に行く?」
「なっ、なんで俺なんだよ…」
「帰宅部だし」
「それは樹もだろぉ!」
「楽お菓子ばっか食べてるし兄貴より気にするべきなんじゃないの〜?」
「うっ……俺はその…成長期だから別にいーの!」
「え?本気で言ってる?」
「本気だよ!!失礼な!!まだ伸びてんだからな一応!!」
まあとにかく、どうやら里冉は弟達が思っていたより美意識が高かったらしい。
維持してどうするのかという疑問は残ったが、どうせ楽にかっこ悪い姿は見せられないとかそんな理由だろう。
「…つか、兄貴別にもうちょい太ったって問題ないだろ。むしろ太った方がいいって」
「ええ…」
「ていうかまだ触ってたのか楽お前…」
「へへ」
「くふ、ちょ、そこくすぐったいよらっくん」
「あー、あとさ、細すぎると早死するって聞いたことあるしさ……兄貴に早死されたら俺…俺……」
「う…」
「だからさ…そんな気にしないで…?」
「らっくん…」
「らっくんがそこまで言うなら…!って顔だな」
「無事にジム回避成功?」
「やめろそういうこと言うな!」
「はーーこれだからあざと四男は」
「ずるいわーこの人ー」
「何がずるいんだよっつかあざとくねぇっつの!」
「ね、あざといって何?」
「これだからバカは」
「ありがとう!」
「褒めてねぇよ!」
「あはは、ふふふっ」
こうして五人揃っていると自然と笑顔にさせられてしまうので、落ち込む暇などなくなる。
里冉はそう感じたのだった。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
11 / 12