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仕事帰り 弐
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「あ、あと、猫ちゃ__」
「ええ、あなたに言われなくても知っています。
後部座席の方に置いてください。」
そういうと黒川は頭を車内に入れて、奏が何かする前に窓も閉めてしまった。
__俺には心も何も開かないってことね・・・。
冬の風が吹いてきて、シャッターがガタガタと空っぽな音を立てる。
まだ寒い二月の気に、奏はブルッと身震いすると、何事もなかったかのように、いつも通り、黒川の車に乗り込む。
車の中は暖かくは無かったものの、椅子には電子カーペットが引いてあり、暖かくしてあった。
この前__といってもつい先日なのだが、その日__には無かったはずだ。
奏が驚いてなかなか座らないので、黒川は待ち疲れたのか、奏の手を引いて座らせた。
奏そんな、黒川の人間じみた行動に驚きながらも、その座席に座った。
そして大事そうに、猫の亡骸をそっと後部座席の方に置いた。
「何か可笑しかったですか?」
「え__?」
あまりにも唐突に黒川が聞いてきたものだから、奏は何を言われているのかよくわからなかった。
そしてすぐに電子カーペットの事だと気づくと、「うん」といった。
「だって黒川さん、この前やってなかったから」
「私が電子カーペットを引くと可笑しいのです?」
「いいえ、違うよ」
やっぱり、黒川は難しい人だ。
奏の予想では『〇〇で買ってきたのです』みたいなことを言うはずだったのだが、予想には全然当てはまっていなかった。
「ただ、驚いただけだよ」
「それだけなので?」
黒川がしょんぼりとしたような仕草をしたため__勿論、顔はいつも通りで変わってはいなかった__奏はまた驚いた。
__黒川さん、今日は人間っぽい。
黒川はアクセルを踏み、ハンドルをきる。
車が発進したので、奏はシートベルトを締める。
随分前__たしか初めて黒川の車に乗せて貰ったとき、『シートベルトくらいしなさい、あなたは人間の常識も理解出来ないのですか?』と散々怒られたため、もうあんなに長く説教されるのは懲り懲りだったからだ。
それにしても、やけに今回、黒川がシートベルトを締めるのが遅いなぁと思ったら、もうすでに締めていた。
毎回奏が締めるのを確認してから自身もシートベルトを締めていたので、なんとなく奏を受け入れてくれたのかもしれない。
「なんとなく、まだ寒いので__。
あなたも仕事に疲れているのでしょう、ましてや今回なんてあなたのトラウマの場所じゃありませんか。
流石に体調を崩されると困りますから」
黒川は運転しながら早口でそう言う。
黒川の拙い優しさが、奏には嬉しかった。
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