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14.再会
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加奈子からの電話の後。
心の整理がなかなかつかない。
吉岡は足を運ぶのをためらっていた。
時間は限られるはずなのに。
そんなうちに一カ月がたった頃、加奈子から再び電話が入った。
内容は一時退院して来たので自宅に戻ったということ。
もう一つは、遠方で不幸がありどうしても娘同伴で自宅を開けなくてはいけないので吉岡に留守番をお願い出来ないかというものだった。
狼狽えてしまって、話にならない吉岡を置いて、佐和子が了解してしまう。
「ちゃんと向かい合ってきなさいよ」
そう送り出されたものの、どうしたらいいのか分からない。
こんなに何をしたらいいのかわからないのは初めてだ。
重い足を引きずり、通い慣れた彼の自宅に向かう。
ちょうど着いたとき、中から加奈子と娘のみのりが出てきた。
「吉岡さん、こんにちは」
「あら、吉岡さん!ごめんなさいね。急なお願いで。でも吉岡さんにしか頼めなくて」
「あ、あの。しかし!もし体調が悪くなってしまったら……」
加奈子は朗らかに笑う。
「大丈夫です。もし体調が変わるようであれば、市立病院の内科、熊谷先生に連絡することになっています」
彼女は連絡先の書かれた紙を手渡す。
「でも大丈夫だと思います。治療もひと段落したところだし、ここ数日調子がいいので、仕事に戻る予定なのよ」
「え、」
「まあ、フルにってわけにはいかないですけど明後日から……」
「お母さん、時間」
そこでみのりが口を挟む。
中学生なのにしっかりした子だ。
顔つきは加奈子に似てはっきりしている。
将来はさぞ綺麗な子になるだろう。
利発そうだ。
確か、長男もそんなタイプだった記憶がある。
彼は年が離れていて、そろそろ大学を卒業するころだろうか。
東京の大学に行っているので、ここ数年はほとんど顔を合わせることもなかったが。
すごく優秀な子だった記憶がある。
保住も加奈子も子供の話はあまりしないから詳しくは知らないが。
東京に出たということは、そのままあちらで就職するに違いないと思った記憶がある。
「そうだった。新幹線に遅れちゃう。じゃあ、すみません。よろしくお願いします」
「あ、あの」
「身の回りのことは一人でやりますし。まあ、いてもらうだけでいいですから」
彼女は、みのりを従えてさっさと姿を消した。
そういわれても……。
結局。
入院中は一回も顔を出しに行けなかったから後ろめたいのだ。
どんな顔をして会ったらいいのだろうか。
「吉岡、来てくれたのか?」
玄関先で迷っていると、中から保住の声が響く。
「は、はい」
これは行くしかない。
もたもたしていても仕方がないからだ。
「お邪魔します」
吉岡は、意を決して上がり込む。
そして居間に顔を出す。
保住はソファに座っていた。
一瞬。
この世の人ではないのかと思う。
もともと、線の細い男だったが、ますます線が薄い。
ただ、彼は吉岡を見て笑顔を見せた。
「やっと来てくれたね。嫌われたのかと思った」
「そんな。あの。すみません」
吉岡は、ぺこっと頭を下げてから、保住のそばの椅子に腰を下ろす。
「すみません」
ただただ頭を下げる。
「最後に会ったのは国に行く前だろうか?もう二年も顔を見ていなかったから心配していたんだ。体調は大丈夫か?」
自分が辛いのに。
人の心配をするなんて。
保住らしい。
「あの……」
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