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「るーるるるー」
2階に絵本を取りに行った陸は、戻ってくるなり俺の隣へ座った。
親から離れたくない子どもの例だ。
絵本をめくりながら歌っている姿に思わず吹き出す。
「陸ねー、バスケでいっぱいボール入れたの」
「へえ、それもバスケ少年の物語じゃん」
「うん。これが陸で、こっちがマーちゃん」
「ぷふ……そうなんだ」
どう見ても違う男の子が主役だが、陸の妄想に付き合ってやるのも悪くない。
「誠くんは何回入れたって書いてる?」
「んとね、3回。ボクが4回なの」
「1試合でそれはすごい」
「でもほんとだよ。ボク入れたもん」
亮雅さんが運動神経抜群なのだから、陸も同じくらい器用にやりそうだ。
小学1年生だからとナメてかかれば痛い目を見る。
「なぁ、陸はみんなの前で作文を発表するときどうだった? 緊張しただろ」
亮雅さんのことについて書いていた陸の作文は、寝室の戸棚に飾ってある。
クラスメイトに発表する姿がたくましく見えていたのが懐かしい。
「りょしゃんはかいじゅうだけどパンツマンだから強いの」
「なにそれ、1人2役ってこと? 多才だな」
「やさい?」
「多才。なんでもできる器用な人ってこと」
「パパはやさい」
どっちかと言えば肉食だけどな……
なんてことは陸に言えないので黙っておく。
2人きりのときにしか見せない顔がいつも俺の心を狂わせる。
本人は自覚がないのだろう。
その証拠に、俺がどうして亮雅さん相手だと緊張してしまうのか未だに気づいていない。
「おやさい、やさいぃ。ういいぃぃぃ」
「情緒不安定か。陸のノートぐしゃぐしゃになるぞ」
「みてこれ、パプだよぉ」
「パプキンの目可愛いな」
宿題用のノートは表紙が陸の落書きで埋められている。
パプキンだったりナン、ハムと自分の好きな子たちを描いている陸を想像したら笑えてくるものだ。
「パパかえってこないないねー」
「たしか、あいさつに行ってるんだって。暇だったらケーキでも作ろうか」
「ケーキ! 食べるぅ!」
仕方ないとペンを置いて立ち上がると、自分のスマホにメッセージが来ていることに気づいた。
送り主は俊太で、『いま時間ある?』と一言だけだった。
気になって電話をかけてみれば、俊太からの応答がすぐにあった。
「もしもし、俺だけど」
『やぁ』
「……やぁって。深刻そうな内容だったのにそうでもないのか」
『いんや、前に言ってた作文? 小説? どうなのかなって思ってさ』
通話しながらキッチンに立つと、陸が台に上ってこちらの様子を伺うように見上げてくる。
しつけをしたわけでもないらしいが、通話中に大声を出さないところが育ちのよさを感じさせる。
「まぁ、結構書けてる方」
『出版社の企画なんだっけ? 優斗がそういうのやるなんて珍しいな』
「……なんていうか、口で言わなきゃ伝わらないことってあるだろ。俺は会話が得意じゃないから、文章にして伝えようって」
『それってさ、優斗が成長してってる証拠じゃん?』
「は……」
『だって優斗は今まで避けてきたわけだし。でも、前に進もうとしたってことは凄い進歩だよ』
なんだか居心地が悪いほど褒め上手だと思った。
俊太はカウンセリングや教師が向いてるんじゃないだろうか。
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